「世界が明日で終わりだってコトになったら、どうやって一日を過ごしたい?」

 そう突然君島は尋ねてきた。
 何回か、抱かれた後の気だるい余韻が頭の中まで浸透していたトキ。
 急に言われたから、何を君島が聞いてきたのか理解するのに時間がかかった。遠くで誰かの声が聞こえてきた。飼っている犬の散歩でもしているのだろう。もう早朝なのかもしれない。早いよーっと笑いながら叫んでいる声とキャンキャンっと元気良く鳴く声が空気にしみこんでいって、自分たちのところにもそののどかな雰囲気を分けてくれる。

 そんな中でたずねられた問いが。あまりに今とかけ離れているような気がして。

 何もいえなくて。カズマは君島が撫でててくれたその手の感覚の気持ちよさも手伝って、静かに意識を沈ませていった。


―最後の一日を、どう過ごしますか?

The End Of the Day  


 昼下がり。
 晴れた日。
 あったかくて、ぼぅっとすごすには最高の、日。

 牧場の仕事も、君島の仕事のほうも特に何もなかったので、ただ小さなソファーと床の上で静かに過ごしていた。
 君島も特にすることもなかったのか、朝から「カッズマくーん」といつものようにあほづらを窓から覗かせて。愛車にいろいろ何かを載せてやってきていた。まだカズマはお休み中の時間だ。それなのに、でかい声で。まぬけな笑い顔で。

―かなりいい天気だからさ、オレの相棒カワイコちゃんをもっと美人にしてやろうと思ってさ。

 楽しそうに愛車に向かって笑った君島の姿になんだか、ちょっとむっと来てしまってカズマは小さく眉をひそめる。

「わざわざ、ココでするひつよーねーじゃん」

 そんなぶぅっとすねたような声で返事するカズマに特に気にすることもなく、積んでいた謎な部品を車から下ろし始める。
 ちょうどカズマが眠るソファーからよく見える場所で。
 つまり、君島からも自分が眠っているところがよくみえてしまうことになるから。なんだか恥ずかしくて。カズマは、もっと眠りたかったけれどなんとなく眠れなくなって、そのままソファーの上にちょんと座って思考回路が目覚めるのを待つ。

 突然起こされて、いきなり目の前でエンジンの音をガーガー聞かされて。気持ちいい寝覚めが台無しじゃんかー、と文句もつけたくなるけど。きっといくら言っても、君島は簡単にスルーするだけ。そう思って、カズマはゆっくりとあくびをして、窓の近くにソファーを寄せた。



「・・・邪魔・・」

 ぼそっとそうカズマはつぶやいた。

「なーんだよ、かじゅまクン。アサイチからかじゅまくんの可愛い顔をみたいなぁと思って、わざわざ来たのに、そんなつれないこと言うんですかぁ」

 そんな科白を車の下から言われても嬉しくない。もっと、誠実さをかんじさせろよなーと、カズマは思うけれど。でも良く考えたらそんなこと真顔で言われたら言われたでかなり痛いだろうと思い直す。
ソファーに座って、窓枠に腕を乗せてそこから外へカズマは顔を覗かせた。
 視界の3分の1を占めている空はすっきりと晴れた青で、少しだけ浮かんでいる白い雲がとても柔らかい色合いを寄せていた。白い鳥が、何羽か空を飛にかっているのを瞳が捉えた。
 きききっと、高い声をあげて飛んでいくのをカズマは目を細めて追った。


 高い、高いところをめざして飛んでいく鳥が。だんだん小さくなって青い色に吸い込まれていく。


 青い色の向こうには、何が見えるんだろう。
 自分も、空を飛べたら。青い空に、還っていけるのかな。




「カズマ、何そんな可愛い目で見てんのかな」

 突然耳元に低い声で囁かれて、カズマはびっくりして視線を地上に降ろした。
 青と白だけの世界が、土色と緑と。
 それから君島の茶色い髪に色彩のベースを変える。

「・・あ、君島・・?」

 そう言ったカズマの声に、君島はふっと口元だけを緩めて笑顔を見せる。なんとなくいつもの笑い顔と違うような気がして。カズマは小首をかしげた。

「どした?君島?」

そんなカズマの頭をぽんぽんっと叩いて、一瞬カズマの視線から自分の顔を離して再びそれを向けたときにはカズマが今まで見慣れていた君島の笑い顔がそこにあった。
 何かいおうとしてカズマは口を開けようとしたら、どこからか、ぐぅっと変な音が響いて、それが自分のおなかからのシグナルだということに気づいた。
 くくっと笑う君島の声が聞こえて、カズマは非難するように睨みつけようとした自分の前に。

「ほら、コレでも食ってな」
「え?」

 君島の手から自分の胸にトンっと押し付けられたものを見つめる。かすかにあたたかい紙袋と、甘い香り。袋に描かれたマークを見て、カズマはさっきまでの拗ねすねモードは消え去って、満面の笑顔を浮かべる。
 その子供っぽいカズマの表情に君島は面白そうに笑って、可愛いぜと心の中でつぶやいて見る。

「ドーナッツじゃん!」

 カズマの大好物のドーナッツ。何か思い出があるようだけれど、知りたくないといえばそんなことはないけれど、でも今の自分に特に絶対必要なことがらでもない。自分の可愛い恋人の大好物は「ドーナッツ」。この事実で十分だと思うから。
 すげーうまいぞーっと幸せそうにぱくつくカズマをずっと見ていたい気がしたけれど、とにかく手にもっていたスパナで再び君島は作業を開始することにした。




 別に車の改造なんてこんなところでする必要はなかったけれど。
 むしろ、家でやったほうが荷物を積み込んだりココまで着たりする手間を考えたらずっと楽だといえただろうけれど。
 でも。
 可愛いあの子を見ていたいと思ったから。
 青い空の下で、あのコを見ていたいと思ったから。
 だから、来た。



 君島、と自分をただ当たり前に呼ぶ声が聞きたかった。それを聞くだけで、何か心の中の不安が消え去るような不思議な感覚を、感じていたかったから。


 君島は車の下に潜り込む前に、ゆっくりと空を見上げた。空は抜けるように蒼かった。どうして水が落ちてこないんだろうと思えてしまうくらいに綺麗な透明。絶対に自分には届かない、空の蒼。
 死んだら、空に帰るなんて。それは違う。
 土に還る。
 大地に、生きつづける自分だから。



 でも。



 君島はもう一度、薄汚れた元病院の建物に視線をやる。汚れと戦いとで黒くなってしまっている壁だけれど、でも。


「・・?君島!ありがと!!」


 にっこりと自分に笑いかけてくるカズマの周囲だけが、綺麗な色に彩どられていて。その背に見えるのは、多分。

 ぶんぶんと小さく手を振って自分に可愛らしい笑顔を向けてくれる少年に君島はにっと笑顔を返して、けれど手にしたスパナを壊れるかと思うくらいに強く握り締めた。


 蒼い空なんて、見えなくなればいいのに。
 愛しい少年が、還りたいと感じる色の空なんか、曇ればいい。

 バカだと思った。
 縛れたら、どんなにいいだろう。
 白い羽を持つ、少年の心を繋ぎとめて。一生、傍にと。




― 世界が明日でなくなるとしたら、どうやって過ごす?





 アイツを思いっきり抱いて、自分を刻み付けた後にそう、訊ねた。
 卑怯だよね、オレってさ。
 誘導尋問だよ、それじゃー。こういう答えがほしいから、答えさせるためにシーンを設定する。
 心狭いけど、好きだから。アイシテルから。
 余裕ないけど。でも、それだけ、あいつを・・・・・・



 ちゅんちゅんっと鳥の鳴き声が重なり合って、絶え間ない自然のメロディを紡ぐ。カズマは紙袋から最後のドーナッツを取り出して、それから少し考えて。君島を呼んだ。



「君島ぁ!!ちょっと来いよ」

 君島は車の下の改造は終わったのか今度は車の前の部分を上げて、その中をいじっていた。あれから40分くらいは過ぎているような気がする。太陽も少しずつ南に向かって上昇中だった。

「んだよ、カズマ。今、手ぇ離せねーからさ」

 後にしろという君島にカズマはオレの言うことがきけねーのかぁ!?とわがまま姫っぷりを爆発させる。
 こういえば君島が自分の言うことを聞かないわけがないと思っているようで、カズマは当然のように君島を待つ。そしてもう慣れっこになっている君島は少しため息をつきつつも、仕方なくカズマの元に行く。

「ナンデスカ、ヒメサマ」
「ひめじゃねーもん!!!」

 むぅっと頬を膨らませるけれど、とにかく君島が言うことを聞いてくれたからよしとしたのか、その歩みを見つめながら、にこぉっと天使の笑みで彼を迎える。

「な、コレ、おなかすいただろ?」
「・・?」
「最後の、イッコ」

 カズマの手には君島が買ってきたドーナッツが握られていた。それをはいっと、君島に差し出した。

「おればっか、食べるの悪いなって思って。」
 それに、もーおなかいっぱいだし。

 差し出されたドーナッツとカズマを君島は交互に見やり、はははっと笑う。

「・・・嬉しいんですが、今は無理だ、カズマ」
「・・・んでだよ?」
「だってさ・・ほら」
「・・・・・・・・・」

 君島の両手には黒い油汚れと思われるモノがいたるところに付いていた。
 この手でドーナッツを食べるというのは、潔癖症じゃなくてもかなり遠慮したい。

「かなみちゃんに残しておいてやれよ」

 そういうとカズマは少し眉をひそめてうーん・・と難しい顔つきになる。

「多分、それはだめだ」
「・・?」
「今、かなみはだいえっとってやつしてるんだってさ」
「・・・・・ダイエット?」

 まだ一桁の年齢のコがいうことですか、それは・・?みたいな感じですが。

「なんか、体重が増えたらしいぞ。だから、かなみに甘いものをみせると、殺されかねないんだよ」

 真剣に悩むカズマの表情に、その言葉がおおげさではないことを汲み取る。オンナノコはそういうところは激しいからなぁと君島はため息をつくと、まぁ自分もおなかはすいていることだから、手を洗って食するかなと思っていたが。

「あ、じゃーさ!オレ、食わしてやろっか?」
「・・え?」

 にこにこっぉっと自分が何をいったのかあまり自覚の無いカズマの無邪気な表情が見えて、君島はずるっと肩の力が抜ける。カズマはそんな君島を尻目に、ドーナッツを半分に分けて、さらにそれを半分に割る。一口サイズとはいいにくいものの、君島の口は小さいほうではないのでこの大きさで充分いけるだろう。

「これだったら、お前も食べれるし、」

 な?と少し悪戯っぽく笑う目の前の少年の瞳の色に、自分をからかうような雰囲気もやっぱり感じ取れて。君島は、まいったなぁと思うけれど、それでも嬉しいというキモチはやはり隠せなかったから。


「じゃさ、外で、それ食わせてよ」
「・・?わざわざ?」

 ここでいーじゃんーーっとごねるカズマだったけれど、がんとして君島は譲らず。そんな「お口、あーんして?」「あーん」なラブラブシーンを誰かに見られる可能性のある屋外でするのはカズマには論外だっただろう。まぁ、窓際越しにこの行為をすることと比べてみたらどっちもどっちと言わざるを得ないけれど。

「どーせ、今日はかなみちゃん、いねーんだろ?それに、こんなへんぴなところに来る奴なんて、そうそういねーよ」
「……」
「その上、こんなに天気いいんだぜ?外で食った方がうまいと思うしさ」

 ちゅっと軽くカズマの額にキスをして。
 びっくりした恋人の大きなアーモンド型の瞳が、さらにくりんっと大きくなって。それから白い頬がぼぼっと紅くなっていく様子を君島は楽しげに見つめる。バカシマ!!大きな声で怒鳴るけれど。それは照れている裏返し。
 それが証拠に、仕方ねーな・・とひょいっと窓からカズマは軽い身のこなしで、君島のいる外の世界へと飛び出した。


「どーせなら、あっち行こうぜ」


 カズマは牧場とは反対側の方向を指さし、さっさと歩いていく。その先に広がるのは、一面のクローバー畑で。かなみとカズマがよく散歩と称して遊び場にしていた野原だった。春になっていることを、荒廃しきったこのロストグラウンドにも強く示してくれているように、緑色のクローバーが一面にしきつめられていた。
 君島は、少し土手のようになっている場所を見つけ、そこに腰を下ろした。さっきまで油の匂いを吸い続けていたせいか、土の薫りがとてもさわやかに感じられる。カズマは君島の隣に座って。それから、手にしていたドーナッツの一つを君島に提示する。


「早く食べねーと、手がべたべたになっちまう」

 カズマの指が自分の唇の方に引き寄せられる。
 意外と白い、指が、ドーナッツの砂糖で甘く濡れているように思えて、君島は小さく喉が鳴る。
 唇を開いて、そのドーナッツをくわえて。そのまま指まで食べたくなるのを、君島は必死で押さえる。

「どー?うまいだろ??」

 オレ、このエンゼルクリーム、大好きなんだぁ。
 無邪気にこちらに笑顔を向けてくるカズマの鈍感さが今は憎いくらいだった。そして、また一口。
それから、三口め。微かに、カズマの指先を君島の舌が掠める。ぴくんっと無意識にその指先が震えるのを、君島は確かに感じて、カズマの表情を伺うけれど。当の本人はその震えを感じていなかったのか、最後のドーナッツのピースを片手に、空を仰いでいた。


 空を見る、カズマの瞳が。
 青く染まっていくような気がして。
 君島は、大きくその少年の名前を、呼んだ。



「あ・・わりぃな、君島。コレ、だよな」

 慌ててカズマは意識を手に持った最後のドーナッツと、隣に座る男に戻した。けれど、その最後のドーナッツは、君島の口にはいることはなく。音をたてることなく、そのやわらかい土の上に落ちていく。
 それから、がさっという草を分け入る音が、響く。


「君島…?」

 突然視界が反転して、カズマは背中に軽い衝撃を感じた。
 一瞬、自分の視界全体が蒼く染まって、ふわっとした体の感覚を感じたけれど、次の瞬間に、重いものを感じて、青色が遮られる。

 カズマの両腕を大地に縛り付けるように、押さえつけて、君島は華奢な少年の体を地に押し倒した。

「なーに、がっついてんだよ」

 少し驚いたような表情を浮かべたカズマだけれど、にっと口元を緩めた後、少し横目にちらっと地面に転がってしまったドーナッツのかけらを目にして、もったいねーの・・と呟いている。
 君島は、そんなカズマから目を離す余裕すらなくて、ただぼぉっとその普段とは変わらない目の前の少年の姿を上から見つめることしか出来なかった。

「君島・・・おまえさー、油ついた手で、オレさわんなよー。汚れちゃうだろ?」

 君島の黒くしみのついた手がカズマの腕をぐっと掴んでいたから。
 それに一瞥してから、君島の心の自嘲の意識が芽生える。多分それが顔にも浮かんでしまっているのかもしれない。不思議そうに自分を見上げるカズマの表情を感じた。

 地面に押し付けるように少年の腕を抑えていたその手をふっと離して。
 けれど、少年の体の上から引くことのないままに、その「汚れた手」を彼の頬に添える。太陽の光を浴びて、綺麗に艶を帯びたその頬が君島にはとてもまぶしくて、汚されることのない白さに思われた。
 油によごれた対照的な自分の指。



「少しは、汚れろよ、カズマぁ」



―オレはすげーきたねーのにさ…




 唇だけで、そう言葉を繋ぐ。


 地下から掘り起こされる油で、少年の背に生える白い羽を汚したら。
 空へ還れなくなるのだろうか?


 本当に、何かんがえてんだろうって思う。
 思考回路がショートしてんじゃないかと思う。
 整備しないといけないのは、車なんかじゃなくて、きっと自分の気持ちなんだろう。
 嘲笑の渦が頭の中を掠めていく。カズマのまっすぐな瞳を見つめるのが痛くて、苦しくてふっと、瞼で視界を閉ざしてしまう。
 黒い一面に闇に落ちた、その視界が。まるで自分の心を表してるようだった。

 何も出来ずに、前にも後ろにも、どうにも動くことが出来なくて。ただ文句をいうだけの自分。

 アルターという神からの試練を糧に、前を歩んでいこうとする少年と。

 その少年を、手放したくないと思ってる自分。

 憧れのその存在が、自分のために体を開いてくれている、その事実を、これからもずっと手にしていたくて。それだけ、あいつのことを、好きで。

 そんな果ての無い思考に沈みそうになる自分を、ふわっと何か暖かいものが一瞬のうちに救い上げる。



「え・・?」


 はっとして、閉じていた視界を開けると。
 自分の頬に、カズマの指が少しだけ触れていた。


「君島は、汚れてなんか、ねーよ」
「・・」

 小さくそう呟いて、カズマは柔らかい笑みを浮かべた。
 かなみを見つめるときの、静かな瞳の色。


「生きてたら、汚れるかもしれないけど。でも、しかたねーし。そうやって生きていくんだと思う」
 カズマの指がすぅっと頬をそって流れるように動く。
「でも、汚れても、オレはそれがキタナイなんて、おもわねーよ」
 それに。

 ついっと、カズマは人差し指を君島の目の前に差し出した。

「涙がこんなに綺麗なんだから・・さ」
「・・・あ」

 な、っと目を細めて。
 カズマはその濡れた指先を愛しげに見つめた。
 知らないうちに、流れていた涙に。君島は軽く目を見張って。
 その指は、青い空に反射するように煌いていた。

 浄化、される心。
 青い色は、誰も拒否しない。
 いつでも生き物の生命活動を上からみつめて、包んでくれるもの。

 大地と同じ、人が、還るもの。
 カズマの薄い胸に、頬を寄せて。その華奢な体を腕の中に抱きしめた。
 鼓動が規則正しく生命を刻む。

 やっぱり、白い羽は少年の背に、綺麗に輝いているように思えた。



「『世界が明日で終わりだってコトになったら、どうやって一日を過ごしたい?』って聞いたじゃん?」

 どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。二人で草原の中寝転がって風を体中で感じていた。食べられなくなったドーナッツは、多分他の動物の食料になって、それからまたその動物も何かの食料になるのかもしれない。ひとつの出来事も、多分なんの無駄にもならない。永遠に続く、シークエンス。

 カズマは君島の方をみるわけでもなく、仰いだ空に意識を向け続けていた。
それでも問い掛ける言葉は、確かに君島に向けられていて。


「オレさ、多分今のまんま、同じように過ごすと思うぞ。」


 そう言ったカズマの言葉に君島は地面に預けていた背中を起こして、横に寝転がる少年の姿を目に映した。

「カズマ・・?」

 自分の声が、震えそうになるのを必死でこらえる。


「君島とバカやって・・、かなみに怒られてさ。それから、むかつくやつらをお前と一緒に倒してさ」

 青い空に向けて、カズマの右手がすぅっと伸びる。まっすぐに、ためらいもなく掲げられる、腕。


「それが一番、楽しいし、幸せだからさ」


 にっと、カズマは君島に笑いかけた。
 浮かべる笑みが本当に幸せそうで、楽しそうで。
 きっと本当の、カズマの気持ちなんだろうなって。

自分でいいのか?とか、もっとお前なら目指すところがあるだろ?とかそんな言葉が一瞬浮かんだけど。
 でも、口からでてくるのは、笑い声で。
 くくくっと、漏れてくる。
 泣きたくなるくらい、シアワセなコトバだよ。


 なーに笑ってんだよ?と拗ねた響きでカズマはぶーぶーゆってるのが聞こえる。けれど、止められないなと。
 好きな、人に。
 最高の、殺し文句言われて。



「じゃぁさ、世界が終わるときまでお前とずっと一緒かよ?」


 そのコトバに、カズマは少し小首をかしげて。
 無邪気な子供の笑顔と、少しの艶っぽい表情で。



「そーいうこと、かな?」
 オレのこと抱いたんだから、最後まで責任とれよ?



 そういって笑うカズマに、君島はもう一度声を出して笑って。
 赤い唇に、キスを落とした。
 触れた唇は甘くて。

 気が遠くなるほど、優しい気分になった。


 多分、オレは地に、お前は空に還って行くのかも知れないけれど。
 きっとでも絶対また会うさ。
 地と空の狭間、今出会ったように。
 ここで、またさ。




「てゆーかさ!」

 カズマはうーんと伸びをして、立ち上がって。
 かなみがいるはずの牧場の方に視線を向ける。
 さぁっと風が、クローバーの小さな葉をたわわせながら過ぎていく。
その風は野原を超えて、どこまでも駆け抜けていって、見知らぬ世界へと新しい空気を運んでいくのだろうか。

 カズマはゆっくりと振り返って、地面に寝そべったままの君島を見下ろして。



「世界を、終わらせたり何か、しねーよ。な、君島」



 にっと、不敵な笑みを向けて。
 その自信たっぷりで、強い瞳を本当に君島は好きだと思った。
 そして、守りたいと。
 だから、そうだな。と。

 グッと親指をカズマに向けた。
 そのためには、とにかくほったらかしにしてきた車の整備を最後までやらないと。

 車の運転の出来ない、このコのために、さ。


 もし、もしも世界が明日で終わるとしても。
 気にせず、今を生きるだけ。




「帰るか?」
「そだな」




 手を繋いでとはいかないけれど。
 一緒に、最後までつきあうよ。


Comment:なんだか、微妙な話になってしまいました。本当はコレ、コピー本か何かでオフライン用にと思って職場でかたかたと打ってました(死→あのトキはヒマだった・・・)でも、なんか結局オフラインではアホ話本(ラブトロピカーナのコトです)を作ることになってしまったので、急遽コレはお蔵入り。で、まぁ、ホムペで載せるかということに。最近全然、劉カズばかり書いてたら、なんか君カズが難しくなりました(オイ)好きなんですけどね。
 で、結構くらい感じですけど、でもラブラブですよ、今回も★最後の二行が書きたくて、この話書きました。最後まで、っていうのはきっとね、物理的とかでなくて、精神的にっていうかさ。そーいうこと。もちろん最後までバカいいながら笑って二人で居て欲しかったけど、ね。