バカなヤツほど可愛いという。
 思考回路も知能レベルも幼児なみ。
 けれど、そこがどんどん可愛く感じられる。

 自分が末期状態にきてるんじゃないかと思うけれど、バカだけれど純粋で大きな瞳でじっと見つめられたら、必然的に抱き締めたくなる衝動で。
 
 心が揺さぶられる。

 けれど。時折、真実を突いたことを発言して。オトナを驚かせる。
 そこがまた、不思議な生物だ。

アイツは。
この、男は。

解けない計算

 かりかりかり…と鉛筆の音が少し響いて、そしてまたしーんと沈黙。こしこしこしと何かを消す音がして、それから小さな溜息が聞こえて、つんつんっと何か布を引っ張る音が微かに空気を振動させる。
 そして、コツンっと。

「いてーー!!」
「さっさとしろ、これは昨日しただろう?」

 大げさなくらいにイタイっと叫ぶ少年を呆れたように見下ろす青年の手にぐるぐると筒にされていたノートが、その少年の形のよい頭にべしっとヒットする。

 厳しい家庭教師と、オバカな生徒。

 クールで美形、家柄もよし、実力ばっちりと神様にヒイキされているとしか思えない青年は、その精悍な顔にひくりと青筋を立てる。そんな先生の様子に、こちらはうってかわった、くりくり目が可愛らしいがその実かなりの気の強い問題児少年は逆ギレに近い大声を立てる。

「こんなの、してねーもん!!昨日したのは、1たす0じゃん!コレは1たす1じゃん!!!りゅーほーのうそつきぃぃ!!」
「……カズマ……」

 あまりにもな答えにさすがの劉鳳も頭痛がしてくる。知能レベルは5才くらいだと、幼なじみの少女は言ったけれど。

―5歳児でも、ココまでバカじゃないだろう・・?

むしろ5歳児に失礼だと思う…などと考えるのも頭痛の種になってしまうので頭の中から追い出す。
 目の前の問題児はうんうん呻りながらも、がんばって考えているようである。というか、考えて答えを出すというような問題のレベルではないと思えるが、ココでやる気がそがれてしまっても仕方がない。

 ほとんど泣きそうになっているカズマに、劉鳳は溜息をつきつつ、説明を施そうと彼の柔らかそうなほっぺを鉛筆でぷにっとつっつく。


「ふにゅ?」


 っと、間抜けな声がカズマの口から紡がれる。しかしカズマはその攻撃を無視しようと思ったのか、問題用紙を見つめる視線を外さない。大きなくりくりの瞳が自分に向かないのが少しムッときて、劉鳳はもう一度今度は指でぷにっとその頬をつっつく。滑らかなほっぺの感触が指先から伝わってきて、劉鳳の指は悪戯を決行していく。


「ふにっ」


 またカズマの口から、間抜けな鳴き声が上がる。

(面白い……)

 ほおを劉鳳の指がぷにっと摘む。
 柔らかい頬をふにゅにゅと横に伸ばしてみる。


「ふにゅにゅーー」


 可愛い鳴き声が上がるたびに、その声が可愛くて劉鳳の指の悪戯がエスカレートしていく。


「可愛いな…」
「だぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


 劉鳳の心の呟きと共に、カズマはがばっと顔を上げて、その頬を好きな風にいじっていた指をぺしっと弾く。

「なにしてやがンだぁぁぁ!!」

 きぃぃっと上目遣いでキツク睨み付けたまま、目の前の家庭教師に噛み付くカズマに、劉鳳は表情を特に変えることなくさらりとのたまう。

「別に。お前が可愛い声を出すから、面白かっただけだ」
「そーゆうの、せくはらってゆーんだ!!!!」

 突然レベルの高いコトバで文句を返すカズマに劉鳳は少し視線をすがめて、こちらに警戒心も顕わにぷるぷる震えているカズマを見遣る。

「…ンだよ!?せくはらヤロウ!!」

 いくらキツク睨み付けられようが、もともとの大きな目で凄まれても劉鳳にはあまり効かない、というより可愛いと思えてしまう位だった。しかも、「レベルの高いコトバ」の響きがひらがなで聞こえてしまうのは耳の錯覚ではないだろう。つまり。

「…カズマ、セクハラって何か知って言っているんだろうな?」
「…!!!!そ、それは…」

 ぐぅっと詰まるカズマに劉鳳は意地悪い笑みを浮かべる。その表情にむかついて、カズマは近くにあった消しゴムを目の前の青年に投げつける。しかし、その子供っぽいカズマの反抗をひょいと首を数ミリ動かした程度で避けると、オシオキとばかりに、ふにっと今度は両方の頬をひっぱる。

「いひゃい!!!」
「知らないクセに、そんなコトバ使うんじゃない」

 そう言ってふふんと鼻で笑う劉鳳の態度に、カズマの怒りのボルテージがどんどん上がっていく。怒り・・というか、拗ねてしまうというか。ただ、なんとなく面白くなくて。きぃっと睨み付けるけれど、そんな自分をまるで宥めるように今度はくしゃくしゃっと髪に触れてくる劉鳳がなんかやっぱりムカツク。
 それで、自分をコドモ扱いする目の前のオトコに、べーーーっと舌を出して抵抗した。

「し…知ってるゾ!!こーやって、べたべた触るヘンタイコウイをせくはらってゆーんだ!!!そーいうやつはアブナイから近づくんじゃないぞっていわれたもん!」

 えっへン!!どーだ!といわんばかりにコッチを上目遣いで見上げてくるアーモンド型の瞳が劉鳳のオトコノコの心をいつもなら、これでもかといわんばかりに刺激してくるけれど。今回は可愛い口から紡がれた言葉に無視できないセンテンスがふんだんに混じっていて、すぅっと心が逆に冷えていくのを感じた。

「誰に言われた?」

 ちょっと震えた劉鳳の声に気付かなかったのか、きょとんとした顔でカズマは劉鳳の簡潔すぎる質問を心の中で反芻し、そしてにっこりわらって可愛く答える。


「くーがー♪」


 満面の笑顔で劉鳳にとって一番の恋敵の名前を呼ぶカズマの姿に、青年の頭の線が一本切れた。

 ブチ。


 ポカン!


「い、イタイ!!!いきなり何しやがんだぁ!!」

 クーガーの名前を聞いて一瞬動きが止まったかと思ったら、突如彼の拳がぽかんっとカズマの頭をはたいていた。すぐに殴るから憶えるモノも憶えられないじゃないかとカズマは思って。
 頭を抱えて、劉鳳に文句を言おうとしたけれど。

 その劉鳳の表情がとても怖くて、冷たくて。

 びくんっっと、躰が縮こまってしまう。反射的に、以前初めてあったときのあの強烈な、冷たい眼差しが思い出された。
 叩かれて、バカにされて、怒るのは自分の方なのに、どーして劉鳳が怒ってるのか分からなくて。そんなに、この計算が解けないことが劉鳳に気に入らないのかな?

「りゅーほー?」

 はっとして、劉鳳は声のする方へ顔を向ける。鉛筆をぎゅっと握って、自分をみつめてくるカズマの瞳はいつもと同じように澄んだ強い光を灯しているけれど。微かにそれが揺らいでいるような、そんな色に劉鳳は苦笑する。

「すまない」

 さっきまで触れていたカズマの髪に、もう一度触れる。柔らかい髪が、劉鳳の指をさらりと撫でていく。その行為がキモチイイのか、ぴくんっと机の上に無造作に乗せられていた、カズマの小さい指が軽く震えた。

「…なんだか、わかんねーけど……もぉ、怒ってねぇ?」

 舌っ足らずに聞いてくる少年の声が空気を柔らかくして。心地よく自分の耳に届くのを劉鳳は静かに受け止めながら、その声の余韻を感じていたくて。
 コトバにしない変わりに軽くカズマの指に口づけた。


+++++++++++++++++++


「1+1は?」
 心地よい沈黙の後は、やっぱり最初の質問。
 右斜めに座った、赤い髪の少年。
 彼の小さな脳みその中でどんな思考方法が繰り広げられているのか、多分普通に知能のある自分にはある意味理解不能だなと思いながら、1+1にすべての思考力を注ぐカズマを待つ。
 きしきしと、イスが微かに軋む音だけが響いてくる。なごやかな空間。

 劉鳳は、目を閉じて上を向きながら考えるカズマに視線を向ける。
 なめらかな、白い首筋が清らかで、劉鳳の意識がすっとそれから離れられなくなる。
 初めて触れてみて、分かったこと。
 戦いだけじゃ、分からなかった、カズマの躰。


 意外に白い肌。
 意外に、華奢な躰。
 意外に高い、声。
 意外に、柔らかい、髪。
 意外に弱くて繊細な、心。


 無意識に、劉鳳は隣に座るカズマの細い首筋をゆっくり唇でなぞる。
 小さい声が、カズマの口から漏れるけれど。
 構うことなく、自分より一回り小さな躰を少し強引に引き寄せた。
 からんっと、鉛筆が机の上に落ちる音がする。
 遠いところで、響くような、そんな音だった。


 見えるのは、自分を映す、綺麗で強い瞳。
 感じきった末の、涙で潤んだカズマの瞳が、凶悪に心に刻まれる。
 何度も何度も。

 赤い唇を自分のソレで閉じて、力の抜けた躰を、ゆっくり絨毯の上に押し倒した。見下ろしたカズマの瞳が、戸惑うように揺れて。それから閉じられて。
 再び自分の顔を映したその瞳には呆れたような表情を浮かべていた。

「カズマ…」

 乱れた制服の下に指を這わせながら劉鳳は名前を呼んだ。
 激しくなる劉鳳の指の動きを感じて、カズマは目を閉じたけれど、ぎゅぅっと自分から劉鳳の首に抱きついて。
 耳元で、悪戯っぽく、囁いた。


「こーいうことするから、オレ、いつまでたってもおぼえらんねーんだと思う」


 そんなコトを言うカズマの唇をもう一度指で撫でながら劉鳳は、耳元で、低い声をして、囁く。
 カズマが、好きだと言ってくれた、低い自分の声。

「誘うお前が悪いんだ」
「そんなこと、してねー……んっぁ」

 理不尽すぎる劉鳳のコトバにカズマはちょっとムッときて、言葉を返そうとするけれど、それは悪戯な劉鳳の指が塞き止めて、代わりに甘い喘ぎ声を紡ぎ出す。

「可愛くない口は塞いで、可愛いカラダに聞いてみるさ」

 それってすっげーエロおやじみてーだぞ?
 そう言いたかったけれど、後でイジワルされるのもイヤダし。
 それに、やっぱり凄く、ドキドキ心臓がしてるし。

 首筋から胸元に降りていく劉鳳の唇の感触を体中で感じながら、カズマはぎゅっと劉鳳の頭を抱き締めた。
 さらさらの髪が、くすぐったかった。


「ばかりゅーほー」


 さっき投げたままの消しゴムが視界に入って、なんだか笑えた。
 劉鳳が、好きだなって思ったから。
 不意に、さっきまで頭を支配していた計算問題を思い出した。
 それから。

 体の中で劉鳳の熱さを感じながら、カズマは計算の答えが、分かった気がした。



++++++++++++++++



「1タス1は、1じゃん?」
 突然言ったからか分からないけれど、目をまるくして見つめる劉鳳の間抜けな顔が面白くて。でも、間違ってないと思ったから。
 カズマは、小首を傾げて、にっこり笑った。

 そしたら劉鳳はキスしてくれた。





 世の中の常識。
 けれど、常識だけがすべてじゃない。
 常識だったら正解とか、そんな硬い考えの中で生きていくなんて絶対イヤ。
 そんな定規で測れるような、単純な想いなんて、持ってないもの。

 それだけ、好きってコトだよ?
 だから、だから。
 お前も、ずっとずっとオレのこと、もっともっと、抱き締めて。
 それから……








 目を開いたら、絨毯の上じゃなくて。もっと柔らかいベッドの上。
 勉強時間は別の勉強になっちゃったみたいだ。
 気を失ってしまうなんて、久しぶり。
 服はまだ着せてくれていないみたいで、少し冷たい布団とシーツが火照ったカラダにちょっと気持ちよくて、また眠ってしまいそうになるけれど。
 頬に触れてきた指がそれを中断してしまう。

「カズマ、大丈夫か?」

 いつもある傲慢な響きはほとんど感じられない、柔らかい声。低くて、すごく安心できる。好きって素直に言えちゃいそう。だけど。

「だいじょぶ…多分」

 声が少し拗ねてしまうのはきっと、きちんと着込んだ制服姿の劉鳳にむぅっときたりしたから。
 オレのこと、ずっと抱っこしてろよなって、コドモみたいなこと思ったりして。だって、クーガーはそーだったぞ?コンナコトした後は…って、これは劉鳳に内緒にしなきゃな。

 そんなこんなを考えている間に、布団の中に伸びてきた劉鳳の腕がカズマのワキに添えられて、ひょいっとベッドの上に座らされてしまう。へちょっと、布団の上に座らされて。突然あったかい布団の中から、すっぱだかのまま外気に晒されたからか、カズマはくしゅんっと小さくくしゃみをした。

 しなやかな胸と細い腰が顕わになって、劉鳳は視線をカズマに注ぐ。
 少し紅潮した肌がさっきまでの行為をしっかり刻んでいた印のように思えて、劉鳳はベッドの下に跪いて、うつむきかげんのカズマの唇を下から奪う。

「ん…」

 軽い声がして、カズマの腕が劉鳳の背中に回された。
 そんな可愛い仕草が劉鳳の心を無意識に高ぶらせていることを知らないで、自分の腕の中で完全に安心しきっているカズマに苦笑する。
 いつもはここまで自分にすら甘えてくれないけれど。行為の後だけは、本当に無防備に自分を見せてくれる。
 欲望を解き放つとき同様に、自分を満足させてくれるこの瞬間が劉鳳にとっては至福の時だった。

 華奢な躰を抱き締めようとしたとき、腕の中の少年が突然声をあげて、がばっと顔を上に向けた。
 カズマの得意そうな表情がコドモっぽくて、劉鳳は自分と一つ違いだとはどうしても思えない。だからコドモを扱うようにしてしまい、カズマを怒らせてしまうのだけれど。



「そーだ!分かったぜ!1タス1の答え!!」

 そのコトバに、そういえばとさっきもそんなことを言っていたのを劉鳳は思い出し、しかしその得意そうな表情を曇らせるに違いないだろうコトを思いつつも、教師(?)としては告げねばならないことを口にする。

「…で、その答えは?」
「うん!!1、だろ?」

 にっこりと、褒めて褒めて、といわんばかりに笑いかけてくる仔猫をどうしてもがっかりさせてしまうのは不本意だがそうもいかない。
 どう考えても、間違いだ。

 はぁと軽くこめかみを押さえつつ、劉鳳はカズマの頬に手を添えながら尋ねる。

「なんで、そうなるんだ?」

 正解だということを信じて疑わない、そのキラキラ光る瞳が今は凶暴な小悪魔の瞳に劉鳳には映ってしまうのは何故だろう。劉鳳のそのコトバに、褒めてもらえると思っていたカズマは少し不思議そうに小首を傾げて、たどたどしく説明をする。

「えー、だってさー。そんなの簡単じゃん?」

 そういうと、カズマは右手の人差し指をぴんと立てる。

「だって、1だろ?これ、オレじゃん?」
「・・?」

 よく分からない説明に劉鳳の方が首を傾げる番だった。
 そんな劉鳳に構うことなく、カズマの説明は続く。
 で、よいしょと劉鳳の手をカズマは持ち上げて、自分の右手と同じように人差し指をぴんと立てさせて。

「で、こっちも1。コレはりゅーほーな?」
「……?」

 それからーと、言ってから、なぜかカズマはちょっとうつむき加減に顔を下に向けてしまう。劉鳳の頭はまさにハテナマークが飛び交っていると言って過言ではないのだけれど。

「どうした、カズマ?」

 そう声を掛けると、ちらっとカズマは上目遣いで劉鳳をその瞳に映して。それから…

「こーやって、りゅーほーとオレをたしたらさ」

 指と指をくっつけて。

 真っ赤になりながら。
 小さな声で。



―ひとつに、なるじゃん?



 指と指が、重ねられて。
 白いうなじまで、赤くなって。
 そんなカズマが本当に愛しくて。
 触れ合って絡み合う指が互いの体温を混じり合わせて、本当に境界線をなくしていく。

「カズマ…」

 そう呼びかけたら、にっこり笑うカズマの唇が。

「りゅーほー」

 そう形作ったから。



「そうだな、正解だ」



 劉鳳は静かに笑って、よくできたなと、カズマにキスをした。
 カズマは顔をまっかにして上目遣いで劉鳳の首筋にぎゅっと抱きついて。
 


―ずっと1でいたいよ?



 そう甘えて囁いたカズマに劉鳳は、ああ、と笑って頷いた。






 1+1は?
 常識なんて関係ない。
 学問上の論理とか、そんなのどうでもよくて。
 気持ちの問題。
 1つのものと1つのものが溶け合ったら、きっと大きな1になる。
 一つの大きな、大切な想いになるから。


「1タス1は1なんだよな。刻んじゃったぞ?」

 そう言っていたずらっぽく笑うカズマに、劉鳳はなんとなくシテやられたような気がしないでもないけれど、まあ、腕の中の少年が可愛いから今回は大目に見ようかと。
 結局甘い、先生で。


 机の上の問題集が正しい答えで埋められるのは一体いつのことになるんだろうなと考えるのもやってられない、ともう1人の水守先生が思ったとか思わなかったとか…


 END


COMMENT:うわ、くさ!!っていうか、誰だよ、こいつら・・・おいおいおいーーーーー!!!いいけどさ・・・しかもよく考えると、るりさん初の劉カズ小説(笑)こんなんでいいのか!?アタシの中の劉カズ、なんか違うよ?いや、ホントはもっともっとヘンタイ劉鳳さんを書きたかったんですが、最初はやっぱり少女マンガで行かねばと思ったらしい。ヒソカにクーカズ(笑)
 ところでこれ、パラレルなんでつっこまないように・・・ホーリーに何で所属してるんですか!?とかさ。カズマの制服姿は可愛くて犯罪です♪あまりに似合ってません♪きゃ!むしろ、シェリスの制服の方が似合うんじゃ・・・ごにょごにょ・・・・
 ちなみにコレは、劉カズにハマリまくりのRちゃんに捧げます♪ヘンタイ劉鳳同盟しましょう(笑)