非現実なんて、ばかばかしい。
 生産的でないコトを楽しんで、それで満足するなんて。バカみたいだって思うけれど。
 でも、やっぱり、楽しかったことには違いなくて。

 辛いことも、哀しいことも、痛いことも、全部忘れて、今を楽しめたらどんなにいいだろう。なんて。思えてしまう自分は、すごくバカなのかな。

 だけど、楽しいのにと思えたから。

 だから、こんなところで、二人で一緒に遊べたら、すごくいいだろうなって思えたから。

 なんか、夢見ちゃうのかもしれないね。
 一瞬の現実逃避かもしれないけれど。
 
 でも、思い切り、好きな人の前で、ワガママ言って。笑いたいな。
 いつもと違った、コトしていみたいって思えるのは。

 やっぱり、こんなこと、駄目なこと?




 だから。
 びっくりした。
 アイツが、あんなこと言い出したから。






 たのしく たのしく やさしくね


 天気の良い、秋晴れの日だった。朝から、雲の少ない、蒼色が頭上に広がってすごく透明に見える空。瑞々しさがいっぱいに感じられて、カズマは小さく伸びをした。特に肩が凝ってるわけでもないから、別にコキコキいうわけでもないけれど、やっぱり背筋を伸ばすとキモチイイモノだった。

「お、カズマくん!今日は早起きじゃないですかー」

 そんな風に気持ちよく朝を迎えているカズマにとってはある意味、鬼門にしか思えない、すっとぼけた男の声が聞こえてくる。嫌な想いが微妙に頭をよぎる。この声は、はっきりいってイイコトを自分に与えてくれる可能性は、今までの経験上皆無に等しかった。
 カズマは、キッとその声の方向を睨む。
 ソファーからほんの少し離れたところにある窓の方向。

 そこには、よっこらせと、窓枠を乗り越えて入ってくる男がいた。

「…出たな…君島……」
「なんだよ、それ?人をバケモノみたいにいいやがって」

 バケモノ以上に困った存在なんだから、とカズマは睨む眼光を緩めたりはしなかった。
 なんていったって、このバケモノ、激しくスケベ野郎なんだから。
 押し倒されて、何度眠らせてもらえなかったことか…と、ヤラレちゃったことを思い出して、カズマは、くぅぅ!!っと上目遣いで牽制する。

 そのカズマのまなざしに気付いたのか、君島はカズマを見遣ると、軽くウィンクなどしてくる。そんな熱くみつめんじゃねーよ、なんてコト言いそうな感じである。
 しかも、玄関があるんだからソッチから入ればいいのに、なんでいちいちこんなところから入ってくるのか。それを前に、カズマがブーブー文句付けてやったら、

『なんだか、今から侵入って感じで、チョットヤラシクていいことねー?』

 なんて笑いながら、『間男ってとこ?』といって、カズマにぶっとばされていたエピソードまである。


 しかし、懲りるということばもしらなければ、結局流されてしまうカズマもいて、現在にいたり続けるのであった。


 フゥーっっとまるで親猫からはぐれた仔猫のような警戒を見せるカズマに、君島は笑いを漏らす。無意識でやっている行為だろうけれど、君島にはカズマのそんな行動が可愛くて仕方ないのだ。
 いわゆる、好みのツボってやつだろうか。


「はーいはい、カズマ君、そんなに見つめなくても、オレはオマエにゾッコンなんだからさ」

 余裕をぶちかました態度で、君島はカズマの髪をくしゃくしゃと撫でる。
確かに警戒心はバリバリだったけれど、さっきまで、眠っていただけのカズマの神経は、まだまだ完全に覚醒しているわけでもないようで、いつもならまさにキィィっとひっかかれるところなのに、その撫でられたのが気持ちよかったのか、きょとんっとしながら、君島の行動を見つめていた。
 そんなカズマに、今がチャンスかなと君島はにやりとわらう。

 天気も良好。今日はシゴトも特になしの日曜日。
 別に今日に限ったことでもないけれど、君島の愛しのお姫様は今日も可愛く、元気そうだし。(わがままなところもモチ、健在)

 薄いパジャマ代わりのTシャツの下から、寝乱れたところによる素肌も見えていて、その暴れん坊ぶりからは想像着かないくらいに白い、カズマの肌と、細い腰。
(あー、もう、今日も可愛いぜ!)と心の中で絶叫しつつも、こんな朝早くからカズマに会いに来た理由を思い出す。
 昨日は、一度も、ヤってない。次の日、動けない、なんて言われたらおしまいだ。だから、君島はぐっとガマンした…そのわけは、全部、このために。



 だんだん眠気も覚めてきたのか、それとともにカズマの自分を見る不審そうな瞳の色が強くなってきている様な気がして、君島は苦笑する。


「で…?」
 カズマは、小さくあくびをしてから、ソファーから身軽に床に降りる。その拍子にふんわりと、カズマの髪から甘い香りがすることに気付く。多分かなみのシャンプーなんだろう、意外に柔らかい茶色の髪質と、その甘い香りがとても合っているような気がして、君島は唇を緩めた。
 そんな君島の表情に対して、疑問符を貼り付けて小さく首を傾げるカズマに、君島はニヤっと笑う。
 ひくっとひきつった笑みがカズマの頬に浮かぶ。警戒したように、少し後ずさって、コトバを発する。

「何だ…よ…君島……こんな朝早くに……」

 そのカズマからの疑問に、待ったましたとばかりに、がしっとカズマの肩をつかんで、自分の方に引き寄せた。
 バランスを崩してそのまま、君島の腕の中に抱きしめられる形になったカズマは、何が起こったのかよく分からないようで目をパチパチさせる。そんなカズマの顎をくっと指で掴んで自分の方に向けさせ、君島はカズマの瞳をじっと見つめる。呆然としているカズマの、少し幼い表情に、軽く笑みを浮かべると、自分の唇を、腕中の少年のそれに近づける。
 互いの吐息が唇で感じられるくらいまで、近づく。

 カズマの体が小さく震える。
 いつもなら、一発蹴りでもお見舞いして、自分の体からひきはがすのだが、なんとなくソレもできなくて、ぼんやりしていたら。
 目の前に、君島のアップが近づいてきた。
 何をされるのか、体が覚えていること。

 反射的に、ぎゅっと目を閉じて、君島の行為を待つ。
 朝っぱらから…とか、思ったけれど、今さら抵抗してもどうせムダだと分かていたので、カズマは、まあキスくらいならいいか、と君島のされるままに上を向いた。吐息がかかる近くまで、唇が来て。体が一瞬、揺れる。

「カズマ」

 そう声が聞こえて。

 キスされる、とおもった瞬間。

(―…え?)

 あったかいハズのものではなくて、冷たくて、少し硬いモノが唇にペシペシと当てられた。
 びっくりして目を開けると、意地悪いような表情でこちらを見下ろしている君島が、いた。にやにやっと少しイヤらしそーな笑みを浮かべている君島に、カズマはぼぉっと頬が熱くなる。きっ、となって口を開こうとしたところに、ぱんっと目の前が何かで遮られた。

「……何、コレ?」

 ひらひらと目の前で白くてペラいものが、揺れる。何かの紙のようである。長方形の、2枚の…

(………券?)

「なーにを期待したのかな、カズマクンは?」

 その言葉にむっとしたけれど、とにかくその長方形の紙の方が気になったので、この際カズマはそんな君島のコトバを無視する。

「そんなことより、何だよ、ソレ!?」

 ぺしぺしとそれをカズマの頬にくっつけてくるものだから、うっとおしくて仕方ない。手でしゃあっと、振り払おうとするカズマの様子が、まさに猫のようで、君島はぶぶぶっと笑いをこらえきれなくなる。

「このバカ君島!!」

 癖の悪いカズマの足から間一髪で自分の脛を守ると、カズマの躰を自分の腕の中から解放してやる。暖かみが消えて、ちょっとした喪失感にかられてしまうけれど、そんなことより、まずはコレだ。


「そーんなに、怒るなって」

 へらへら笑う君島の様子に、カズマは訳が分からなくてどんどんストレスがたまっていくような気がする。なんで、朝っぱらからこんなに疲れるんだろう…と、溜息を零しながらも、とにかく君島をじっと見つめた。

「よーく、コレ、見ろよ♪」

 そう得意そうに言うと、君島はずぃっと、その紙をカズマの目の前にまで押しやった。そこには、小さな字と、イラストが描かれていた。

「『ホーリー遊園地 一日パスポート券』…?」

 少しつり目のカズマの瞳が、大きく見開かれる。まさにアーモンド型だ。それ程に、フェイントな、ソレ。
 呆然とそれを見つめるカズマを、君島はふっと小さく笑い声を落としながら、カズマの頭に軽く手をやった。

「前に、ゆってただろ?オマエ、コウイウトコ、って楽しいのかってさ」
「…え?」

 その言葉にカズマは少しびっくりしたように、君島の顔をじっと見遣る。普段のおちゃらけた表情とは違う、優しい大人の男の笑顔がそこにあって、カズマは何も言えなくて、その男を見つめていた。
 そして、そんなこと言ったことあったか?…と漠然と思っていた。

―遊園地、って…楽しい?

 確かに、尋ねたような気は、する・・・・・・








 小さい頃の記憶なんか、思い出したくなかった。
 今さら、見たいとも思わないし、そんなこと、どうでもイイコトだと思っていた。むしろ、もう、見たくなかった、忘れたかった。何も考えたくなかった。
 楽しい思い出なんかないんだから。
 だから。
 だけど。

 ぼんやりと記憶の彼方で、残っていることがあった。
 外で見ていただけなのか、実際行ったのかまでははっきりしないけれど。

 でも、キレイだなと思ったから。

 ネオンが、煌めいていて。
 そして、そこにいる人達の、表情が。
 すごく、すごく……










「なぁ、カズマ。」

 その声に、カズマははっと、意識を現実に戻す。少し照れくさそうに笑う君島の顔を、その瞳に映す。へへっと、頬を掻きながら、君島は手に握ったその2枚のチケットをひらひらさせながら、カズマに告げた。

「確かめに、行ってみるか?」
「…君、島?」

 思いも掛けない君島のコトバに、カズマはその場に固まってしまう。
 遊園地の話題を君島が覚えていたこともびっくりではあるけれど、それ以上に、目の前の君島の表情が、優しかったから。
 その場がしんっとしてしまって、居心地が悪くなったのか、君島は少しトーンを高くしながら、声高にカズマに言葉を送った。
 
「あ、いや…チケットはさ、たまたま依頼人からもらったんだよ。2枚ちょうどあるしさ、市内にはまあ、抜け道もあるから入れるしよ。」

 じっと首を傾げて見つめてくるだけのカズマの視線に照れくさくなり、君島は普段以上に饒舌になる。断られるとは、あまり思いたくないけれど、でもまあ、この誘いはダメもとでやってきたわけだったし。それに、天気もいいわけだし…ごろごろしてても、なぁ…みたいな軽い気持ちで…

 ゆっくりと君島は窓際の方に移動する。気持ちのいい風が部屋の中に新しい空気を吹き込んでいく。遠くで、牛の鳴き声が聞こえてくる、和やかな朝。
 自分の心はこんなに緊張してんだけれどな・・と思うけど。
 やっぱり、ウチのヒメはじゃじゃ馬だから…と君島はカズマを思いやる。

 返事を聞くのも、ドキドキなわけで。

 窓枠に触れると冷たい感触。
 少し、返事を待ってみたけれど、やっぱり答えもなくて。

 コレはちょっとムダだったかなと君島は手の平の中のチケットを見つめて、振り返ろうとしたとき。

 ふわりと、甘い香りが再び自分の鼻孔をくすぐる。
 背中にトンっと軽い衝撃。そして、温かい感触。


「…たまたま?なのか?」
「え…?」


 ちょっと拗ねたような幼い口調のカズマの声が響いてきて、君島は振り向こうとして自分の背中に彼の体重がかかっていることに気付き、少しの間どうしようかと慌てる。けれど、まぁ、いいかと背中合わせの状態で、キープする。


「たまたま、チケット、手に入ったから…誘ったの?」


 思いつきで?
 そう、小さく続けられたコトバに、君島は、がばっと振り向いて否定する。



「ちげーよ!!チケットは必死で取ったし、それに、天気だって今日よくなるようにって、神頼みまでしたし、何より昨日、今日のことを考えてオマエに手ぇ出さなかったし!!」

 肩を掴んで、必死にそう言い募る勢いの君島に、カズマは目を丸くしたけれど。なんだか、すごく嬉しくなって、いつもなら絶対に見せないような、笑顔を君島に見せた。
 にっこりと、気の強そうな瞳が、今だけは可愛く細められる。ジャジャ馬で、エラソウな普段のヒメっぷりではお目にかかれないような、素直なカズマの笑顔。

「オレのために、してくれたのかよ?」
「…………!」

 ぼぼぼっと、顔が熱くなるのを、君島は感じてしまう。かあぁぁっと顔に血液がたまってくるのが分かるくらいの勢いで赤み上昇だったが、とにかく大きく頷く。
 そんな君島にはお構いなしに、カズマはこちらもほんの少し頬を染めて、上目遣いで、きっと二度といわないようなコトバを告げる。

「ありがとう。きみしまぁ」
 
 そういって、俯く目の前の大切な少年を君島は本当に大切だなと想う。
 とても強いアルター能力者。
 はっきりいって自分が守るなんてこと、必要のないくらいの力の持ち主だったけれど。でも、初めて出会ってから、ただ強いだけの少年じゃないということに気付いた。
 精神的に、強いところと弱いところ。

 その不安定さが、気になって。

 ふとした表情が、壊れてしまいそうなくらいに繊細で、儚げだった。

― 遊園地、って楽しいの?

 そう、無意識で言った言葉なのかも知れない、カズマのコトバが、その時のカズマの瞳が、あまりにも寂しそうで、あまりにも遠くて。
 自分は忘れられなかった。

 どうして突然カズマがそんなことを言ったのかとか、分からなかったけれど。
 でも、よく考えてみて。


 カズマの本当の、笑顔ってどんなのだろうと思ったから。


 それを見てみたいと思った。


 はっきりいって、どこでもよかったのだけれど。
 でも、現実と、夢の狭間。
 一瞬だけの幸せなワンダーランド。
 虚栄の楽しみで、アイツの心からの笑顔が見られるとは思わなかったけれど。
でも、遊園地は、人の心を休ませてくれるトコロだって聞いていたから。



「君島…?」

 反応のない君島に、少しじれたような声が聞こえてきて、すまねっと謝る。
 不思議そうに自分を瞳に入れてくれる少年が、愛しくて。

 まあ、なんだかんだいっても、結局は。
 ぐぃっと、カズマの体を再び引き寄せて、今度は耳元に唇を触れさせて、思いっきり優しい声で告げる。

「初めての、デート、いかねーか?」

 つき合ってるとか、なんだか分からないウチに、体の関係が進んで。
 でもいつもつるんでるから、どれがデートとかそんなの、区別もはっきりしてなくて。
 形なんて関係ないっておもうけれど、やっぱりちゃんとしたいのが、オトコノコ。カレシとしての腕のみせどころかなと思ったから。
 

 そう告げると、そのままカズマの柔らかい耳朶にキス。
 ぴくんっと、揺れる華奢な躰を強く腕に引き込んで。
 甘い香りのする、カズマの髪にもキスして。

「きみし…」

 紅くて、甘い味のする、カズマの唇に、優しいキス。


「ふ…ぅん」


 長い長い、深いキスをカズマに施して。
 甘いカズマの吐息をすべて、自分のモノにして。

 ぎゅっとカズマの細い腕が自分の首に回されるのを感じながら、ゆっくりと唇を離していった。
 いつもはわがままな、自由奔放の光を宿らせる茶色のカズマの瞳が、涙でキレイに虹色に光る。

「カズマ…」
「ばか、きみしま」

 ちょっと上目遣いで睨み付けてくるけれど。ゆってることばは全然可愛くないけれど。
 でも、そんな、素直じゃないカズマが可愛くて。守ってやりたいと思って。

 すると、カズマはぺろっと赤い舌を出して、君島の唇を舐める。
 官能的なその仕草に、君島は目を奪われてる。

 しかし・・・・・・。

 その後に続いたカズマのコトバが、君島を急転直下に叩きつける。



「初めての、デートなんかじゃ、ねー」

― いつも、オマエといるときが、デートだって思ってたのに……



 俺の気持ちなんて分かってなかったんだな、とそういうと、カズマはふにっとその目の前の男の鼻をぎゅっとつまみ上げる。




「いてぇーっって、ヤメロ、カズマ!!」
「いーやーだー!誰が、許すか!」




 かなり本気になってしまうカズマだった。
 告白とか、そんなの特になかったし。躰だって、いつの間にか奪われてたって感じだけれど。友達だったときも、いつも一緒だったけど。やっぱり、キスされて、抱きしめられて、好きだよなんて言われてから、一緒にいる時間の意味は微妙に自分の中では違っていたから。
 ワガママなのは、自分でもかなり自覚している。
 何でもいうこと聞いてくれる君島だから、カズマは甘えてしまう。
 でも、それは友達とか、それだけじゃないから。

 その時、自分の手首を強く握られ、あっと言う間に指が君島の肌から離されていく。強い力は、君島のモノで。
 そのまま、とさっとソファーの上に押し倒されてしまった。


 なんだか、気まずくてカズマはふいっと視線を横に逸らす。掴まれた手首が、痛くなってくる。

「カズマ、こっちみろよ」

 低い声が、やっぱり心地よくて、口では大嫌いなんて思いつつも、心はうそを付けない。それでも、やっぱり視線を合わせるのは、イヤな感じがした。
 反らせたまま、べぇっと舌を出してやる。

「ごめんな、カズマ。そんな風に思ってくれてたんだなんて、思いつかなくてさ。」

 必死に謝ってくる君島の姿に、少し気が納まってきて、カズマはちらっと横目で視線を送る。ぎゅっと自分の手首を握りしめる君島の拳が、目に入る。
 イタイくらいの握力が、なんだかくすぐったくなってくる。
 
 それから、無造作に君島の胸ポケットに入れられた遊園地のチケットをカズマは見つめる。遊園地のテーマキャラクターのような、変な生き物が楽しそうにダンスしている、そのイラスト。
 そして、遠い記憶に残る、遊園地の情景。
 夜、空一面に広がる花火と。イルミネーションの明かり。
 キラキラしていて、夢のような世界だった。
 なにより、みんなの笑顔がとても、眩しくて。


―どうして、そんなに笑えるの?


 と、思った。



 どこかで置き忘れてしまった、笑顔を。
 自分も。もう一度。
 取り戻せるの?




 ただ、それだけの、記憶だけれど。
 なんだか、鮮明で、イタイくらいに深層に刻まれていた。




 ゆっくりとはだけられたカズマの素肌に、朝の風が軽く撫でていく。それとともに、触れられる君島の指が、温かい。

「無抵抗じゃん、カズマ?」

 そういって笑う君島に、軽くカズマは笑顔を浮かべる。

「抵抗する必要、ねーし?」

 そう言って、ぎゅっと、カズマは君島の背に腕を回す。
 互いの鼓動が、一つになるような感覚。
 カズマは静かに目を閉じた。

「遊園地に、行ったらさ」

 言葉を紡ぐカズマの首筋に、ちゅっと君島は唇を寄せる。滑らかな肌が、舌に馴染む感じ。




「…遊園地に行ったら…楽しそうに、オレにも笑えるかなって、思ったから」




 その言葉に、唇を這わせていた君島の動きが止まる。
 いつも強気の、カズマの声が、消え入りそうな感じだったから。
 君島はゆっくりと、そのカズマの顔を見下ろす。
 微かにそれた視線の先に、何を見ているのかが分からないような、そんなカズマの表情がひどく壊れてしまいそうで、君島は目を見張る。

 けれど。

 君島の指が、カズマの柔らかい髪を優しく梳く。
 その突然の行動に、カズマはゆっくりと視線を合わせる。そして、ぶつかり合う視線。互いの瞳の中に、互いだけが映し出されて、その瞳の中の自分の目の中にも、互いだけが映し出されている。
 永遠に続く、螺旋のように。




「じゃぁさ、行くことねーか。遊園地」

「・・?」


 君島の言葉の意味が一瞬分からなくて、カズマは瞳を細めるけれど。さっきの自分の言葉に対する、君島の答えだということに、気付く。
 静かに見つめてくるカズマの視線を受け止めながら、その小さな頭をゆっくり撫でる。
 それから、ぴんっと前髪がふんわりとかかっているカズマの額を指で軽く弾く。イテっというカズマの声に笑いながら、しかし、しっかりと伝わるように言葉を贈る。

「だってさ、オマエ、笑えてるじゃん」
「……え?」

 恨めしそうに見つめていたカズマの瞳が、不思議そうな色に変わる。
ぐっと、君島は掴んでいたカズマの手首を更に強く握りしめて、そのままキスを唇にふらせた。

 笑えている?と小さく呟くカズマに、至近距離で、低く、目の前の少年だけに伝わるように君島は呟く。




―オレに向けてくれる、オマエのその笑顔に、惚れたんだからさ




 その言葉が、カズマのココロに浸透していく。
 静かに、優しく、カズマのココロを癒してくれる。
 悩みが、吹き飛んでしまうような、魔術みたいな、君島の、言葉。


 君島の、少し無骨な指が、弄ぶようにカズマの唇を撫でる。

 それがとてもくすぐったくて、本当に安心できる時間。
 
 自分には、一生そんな時間なんて来ないと思っていた。
 『遊園地』に、いる価値のない人間なのかなと思っていた。

『楽しい』という感情。
『笑う』という、感情行動。

 少し照れつつも、真摯な表情で見下ろしてくる君島の視線を受け止める。
 
 君島が。
― 好きだな、と思えるとき。

君島といる時間が。
― 楽しくて、幸せだな、と思えるとき。


 でも、そんなこと、口ではいってやんない。
 調子に乗られるのは、困るし。



 だけど。
 自然に浮かんでくる笑顔は、カズマ自身でも止められなくて。
 出血大サービスで、にっこりと、自分が出来るしぜんな笑顔を見せてアゲル。

 君島だけに。


「なぁ、オレの笑顔、好き?」

 恥ずかしいコト聞くなぁって、カズマ自身思うけれど。
 でも、目の前の男は、もっと恥ずかしい答えで返してくれる。

― オレは、オマエの笑顔にトリコだよ


 もっともっと、トリコになっちゃえばいい。
 


 煽られる息が、苦しいくらいで。
 君島の、指が、声が。カズマの意識を奪っていく。

 カズマの躰の内部に、君島が入ってくる。
 苦痛と、快感の、波。
 ぎゅっと、背中にしがみつく、今の瞬間がカズマには、安心できるとき。


 最奥に、君島を感じた時に、吐息と共に、無意識に視線を横に逸らして。
 床に、無造作に置かれた君島のジャケットから、落ちそうになっているチケット。

「なぁ…ゆーえんち、いか…ねーの?」

 一日限りの、有効チケット。

「夕方からで、いーんじゃねーの?」

 まだまだ、一日は始まったばかりだし。
 
「そっか」
「そーいうこと」


 遊園地みたいな、恋をしよう。
 幸せになれる、不思議の空間。
 でも、それは刹那的じゃないから。

 両想いが、遊園地へのパスポート。
 有効期限は、きっと、ずっと。

 たのしく、たのしく、優しい恋をしよう。
 
 

COMMENT:相変わらずのバカップル街道まっしぐらの君カズ。どんどん、初期設定から外れているような気がしてきました。遊園地ですよ!デートスポット!もう、マニュアルですよ・・・ホーリー遊園地。行きたくねーな・・・
やっぱり、すいか男とか、レーシングマシーンでは、世界を縮める男が管理していたり、ロボットショーとかもあるんでしょうかね・・・こわ。
 今回もエロいのか何なのかよく分かりません。またしても、ハルカちゃんにぬるいと言われそうです。私、だから、エロシーン書くの嫌いなんですよ・・・苦手。頭の中で妄想はスキスキ★なんですけどね(ヲイ)。
 ところで、コレもまだ劉鳳とか出てきてない頃です★世界は私達のためにあるの♪的君カズ。蹴り入れようか・・?
 題名は、初めは「市場へ行こう」をもじって、「遊園地へ行こう」とそのまま、素敵なセンスを爆発していたんですが、なんか別に遊園地ってのは重要なキーワードとも言えなくなってしまったので、トモちゃんの曲にしてみました。可愛い歌で、実は好き。