ずっと、生きていくことに必死だったから。明日のコトなんて考えていられるほどヒマじゃなかったし、余裕もなかったし、考えたこともなかった。

 今、をどうするのかって、それだけが頭を支配していて、ずっとずっと走り続けてきた。もう、躰も、それを支える足も、がくがくだった。
 だから、一度止まったら、多分もう終わり。きっと座り込んで、二度と立ち上がれなくなる。
 そうしたら、きっと後ろからやってくる闇に飲み込まれてしまうのは必然。
そういう世界に生きてきた。

 そう、走り続けなきゃいけない。それが、ココでのセオリー。
 ずっと、そう思っていた。
 だって、1人なんだから、仕方ない。座り込んだ自分を、励ましてくれる人もいないし、手をさしのべてくれる人もいない。

 ずっと、ずっと、そう思っていた。
 だから、歩いてみようとか、立ち止まってみようとか……そのことの意味なんか考えてなかったんだ。

 アイツに会ってから。
 初めて知ったこと。
 アイツが、オレに教えてくれた。

天使の休息と道草
 
 

 気持ちのいい秋風が頬を優しく撫でていく感じに、カズマは小さく深呼吸をする。夏のじりじりした暑さは、もうとっくの昔の出来事のように、暦上も、そして現実共に、秋の気配が濃厚になってきた、9月の下旬。
 寒いとまでは行かなくても、少し日陰にはいると肌寒く感じてくるのは澄み切った空気のせいだろうか。

「なーんか、すっげー気持ちいー」

 うーんっと、仔猫のように気持ちよさげにカズマはノビをした。
 春のような生き生きとした薫りが漂っているわけでもないけれど。これから冬になる前の最後の華を、咲かそうとする彼岸花の赤い色が燃えるようにキレイだった。
 
 そんな自然たっぷりの中で、がちゃがちゃと機械的な無粋音を立てている君島は、大きく溜息をつく。

「何そんなところで、1人イイ旅夢気分なんて味わってんだ?」

 少しは手伝おうとか思わねーわけ?と、片手にペンチを持ちながら、微妙に目をすがめて自分を見る君島に、カズマは、にぽっっと笑いながらも、タカビーなセリフを口にする。

「オレのキレーな指が、油にまみれていいの?」

 なんてセリフ、可愛らしく無邪気に言われて…それで落ちないオトコもいないわけで。少なくとも、目の前にいるこのオトコにはカズマのそのオヒメサマっぷりなところがちょっとしたツボらしい。つくづく損な役回りだよ…と君島は思う。でもまあ、とにかくブツブツ文句を言っていても、壊れたバイクは直らない。せっかく、二人でツーリングデート(というか、ただの依頼をやっつけての帰りに過ぎないのだが)を楽しもうとしていたのに、いきなりブッ壊れるってのは、ある意味、カレシとしては情けない。
 時間はまだ昼過ぎ、これから絶好のデートだったのになぁ…と再び無念の溜息を吐いたものの、横で楽しそうに草の上でころころしている、カワイイコイビトの様子を見ると、まあコレでもいっかと思ってしまう。



 ロストグラウンドと言われる大地は大きな地殻変動によってその自然形態も今まで存在していたモノが壊されてしまった。名、そのものの大地である。けれど、たった一度の大隆起で自然界は2度と立ち直れないわけではない。所詮、ある意味、隆起現象も自然の輪の一つのパーツである。ならば、隆起が破壊を表すわけもなく、再生はリングが永遠に続くならば、起こってくるパーツでもあるのだ。
 大地は、荒れ肌をその地表に見せているけれど、たくましさを見せつけるように、多くの緑を再び生み出し始めていた。
 木々が生える森の形成にはまだまだ時間はかかるかも知れないけれど、荒れ地の次に創造されていくと言われている、草原地帯。雑草は、少しの養分で強く育っていく。品種改良された、お嬢様な家庭菜園とは違う、ハングリー精神を持ちつづける雑草。


 そしてココもそういった一つの場所。
 春になると一面野原の草花で素朴な美しさで着飾られるのであろうと思われる、ちょっとした天然の花畑。

 小高い丘になっているココは、風の通りも良く、秋の空はとても透き通っているように見えた。

 しかしまだ秋の初め、ただ何もしないで立っているだけならば、この風も肌寒いと感じてしまえるくらいの冷たさをもっているかも知れないけれど、実際、修理をしつつうろうろしている自分としては、うっすらと汗をかくくらいの暑さではあるように感じられた。

「わぁー、すっげー!!コレ、変な虫!!」

 ぴょんぴょんっと飛び跳ねている黒い華奢な物体が、草に隠れたり見えたりしている。そんな風景があることが、なんだか無性に愛しくて。
 そして、目の前で機械を相手にしていることがなんだかばからしくなって、君島は工具を放り出す。

「怪我、すんじゃねーぞ!」
 そう走り回る少年に注意をして、返事はどうせ来ないだろう、というか多分耳にも入っていないんだろうなと、君島は苦笑しながら、立ち上がる。
 秋の空。
 突き抜けていくような、晴天。
 
 君島は、落ちてきた一筋の汗を手の甲で軽く拭った。

 まあ、いいか…と、君島は動かなくなったバイクを見遣った。
 ゆっくり視線を、笑い声のする方へ映す。
 そこには、いくつもの表情を浮かべながら走り回る、カズマの姿があった。

「イー天気だな」

 それを瞳に映しながら、のんびりと呟いた。










 ぴょぉっと鳥の声が聞こえてくる。
 カズマは、虫を追いかける手を休めて、すらっと立ち上がった。
 一面に広がる、緑の草と、そしてススキ野原。

 風にやわらかく揺れる、そのススキの動きが、とても優しそうに感じられた。
さわさわと揺れるその穂が、微かな音を立てる。

 サワサワサワ……

 耳に心地よくて、うっとりと目を閉じる。
 こんな音が、あったんだと、少しビックリしながら。

 どんな音楽も、ただの騒音だと思ってた。
 歌はいいねと誰かが言っていたけれど。
 人間が生み出した文化の極みだとか言っていたけれど。

 それは、所詮は人工の音。自然界に存在する音楽は、生の音。
 生きている、そしてどんどん生まれようとしている。

 音楽じゃない、ただの音。
 
 だけど、凄く心を落ち着かせてくれる。

 でも、こんなに心が落ち着くのは。
 幸せだなって思うのは、きっと。
 優しい音色を聞いたからだけじゃない。
 こんな優しい音色に気づけたから、幸せだなって思える。



 じゃあ、何が自分をこんなところに意識させてくれるような状態にさせてくれたのだろう?



 きっと、きっと。


 小高い丘に足を進める。
 ゆっくりと歩くたびに足をくすぐる悪戯なススキの穂に困るけれど。
 優しくて、柔らかいそれは、アイツの指のよう。

 そんなに、大切にしてもらえるほど綺麗だって、思えないけれど。
 でも、アイツはいつも、恥ずかしくなるくらい真摯に自分を見つめてくれる。

 そして、「カズマが大切だよ」と、告げてくる、存在。


 丘の端に、着いた。
 ずっと向こうの方まで見下ろせると言うほど高くはないけれど、でも地平線が綺麗に見えるくらいは高くて。
 地球は丸いんだなって、どうでもいいようなことを考えてしまう。
 目の端に見える地平線は、微妙にカーブを描いていた。

 少し強い風が、びゅっとカズマの横を通りすぎていく。コレはきっと冬になれば木枯らしになって、自分に襲いかかってくるのだろうけれど。今は、まだ戯れるように、空へ向かって走っていく。

 気持ちがいいなと、思った。
 荒涼とした地を映す瞳を閉じて、風をダイレクトに感じる。
 腕を少し広げて、深呼吸をして。
 視覚を閉ざして、その分の神経を聴覚と、触覚に回す。

 まるで自分と遊ぼう、というように絡みつく空気の粒が、可愛いななんて感じるのはちょっと妄想が入っているのかなあ…と頭の端っこで考えながら、自分の髪をさわさわと撫でていく感覚に浸る。

「カズマぁ!気を付けろよー」

 空気の振動によって、優しく彼の声を届けてくれる。ぶっきらぼうなくせに、すごく心配性で。頼りねーのって、思えるのに、実はすごくしっかりしていて。
信じられないくらいに、自分の心を支配してしまった、ヒト。



 その人の、視線を感じる。
 目を閉じると、その、優しい自分を見つめてくれている、感じが、静かに伝わってくる。

 幸せ、の瞬間。

 自分に、こんなゆっくりとした時間をくれたヒト。



 視線を浴びせられるのには慣れてきたつもり。
 侮蔑、同情、嫌悪。
 それと、アイのない、情欲。

 無抵抗に曝されて、体中を犯されて。

 まとわりつくような、人々の眼。

 それに対して自分は憎悪から、恐怖。恐怖から、無関心。無感動。



 だけど。



 あの人の視線が、優しかったから。
 また、感じられるようになった。


 聞こえるようになった、優しい歌が。




 ―けれど




 時折襲ってくるのが、こんなに大切にしてもらっていいのかなって思う、『不安』。
 アイツに会う前は、ずっとずっと強くなることだけを考えてきた。自分を守るために、それを高みに掲げて。
 ずっとずっと、遠くを、高くを見ていた。


 空は、裏切らない。
 絶対に、ソコにあるから。


 届かないけれど、絶対に、消えないから。


 手を伸ばして、掴みたい。
 そう思って、自分を守りたくて、現実を見たくなかったから。
 必死で、空を求めて、走った。







 静かな、静かな、風景。
 ゆっくりと時が流れる。

 あの人の、優しい声。あの人の、優しい視線。

―なんだか、幸せで。溶けちゃいそう


 そう思って、ゆっくりと、空を見たくて、カズマは目を開けた。





 眩しい光が、一気にカズマの視界に入ってくる。
 ぱぁぁっと、見たこともないくらいに綺麗な、淡黄色と白い光が射してきて。
 カズマの視界を一瞬にして塞ぐ。


「!!」

 瞬きをした、その一瞬後。
 時間にしてきっと、コンマの世界。

 けれど、世界は一変していた。

「わぁ……」

 光の奥から、真っ青な蒼。
 眼にいたいくらいの、スカイブルーが、覆い尽くす。
 秋にふさわしい、透明なヴェールをかぶったような、瑞々しい蒼。


 手が、届くんじゃないかって、思った。
 高いところにあるように見えるのに、なんだか、すごく近いような気がした。

海のそれよりも、淡い、蒼。
海のそれよりも、冷たい、碧。


 びゅうううっと、その時更に強い風が、カズマの横を激しく通りすぎていく。ぶわっと髪が風に舞う。
 何枚かの、彼岸花の花弁が蒼い空に飛んでいく。
 どこまで、駆けて行くんだろう、この風は。

 あの、冷たい空まで。
 行くんだろうか。

 そうしたら、あの、透明で綺麗な水の元へいけたら。





― キレイな自分に、戻れるでしょうか?




 侵略される、前の自分に。
 右手が、キレイだった、自分に。





 横を通り過ぎていく、風。
 カズマは、伸びをするように、腕を上げた。指先を広げて、空へと向ける。
絡まり合っていく、空気と肌。その指先に、灯る光。

 なんだか、飛んで行けそうな気がした。

 誰かの声が、耳の奥で、強く囁きかける。


―充分、羽根を休めたでしょう?
 そろそろ、飛ばなきゃ、間に合わないよ?



ばさばさばさっ!!!



 後ろで、何かが飛び立つ音がして。
 空に舞う、白い鳥が、何羽も高みをめざして上っていく。





― 風に、乗れ!





「…え?」


 強い、声が心のずっとずっと、奥から響き渡って。



「カズマァァァッッ!!!」



 切迫した君島の叫び声が、遠くから、そしてどんどん大きくなって響いてきて。その声の方をゆっくり、振り返ろうとした時。

 カズマの目の前に、空気の渦が猛烈に周りを巻き上げながら、迫っていた。
目に見える、空気の流れが、きっと一瞬間だっただろうに、スローモーションでその動きは伝えられてきた。

 風じゃない、突風。つむじ風。
 赤い花弁がいくつもいくつも舞い上がっている暴れん坊の風が。
 音もなく、ゆっくりとカズマのからだを巻き込んで行く。


「あぶねぇぇぇ!!!カズマ!!!」


 視界の端で、君島が、これもまた、スローモーションで自分のトコロへと走ってくるのが見えて。
 その必死な顔がどことなくおかしくて、そして、こんな顔させてしまって、申し訳ないなって思ったのと同時に、こんなに必死になってくれるのが、幸せで、嬉しかった。

 ぶわぁぁっと、予想以上の風の抵抗がカズマの躰を引き裂いていく。
 大地を踏みしめていた両足のバランスが崩れた。

 右足を置こうとしたトコロに、もう、地面はなくて。
 あ、バカだ、と思った瞬間。


 最後に、あの人の顔が見たくなって、ゆっくり顔を上げた。

 彼の顔が見えて、幸せで。
 カズマは、なんだか泣きそうになった。


 土を踏みしめる支えのなくなったからだが、重力のままに落ちていく。
君島の腕が自分に向かって伸ばされるのが見えて、すごく、嬉しかった。


 ゆっくり、目を閉じようと思ったけれど。
 カズマの耳に、力強い、君島の声が、聞こえた


「オレの腕を掴め!!!」 




  絶対、はなさねぇから




 そう、カズマには、聞こえた。



 −だから、腕を、空に。
 まっすぐと…
 大切な、あの人に、伸ばしたんです











 風を身に纏わせて、すらりと立つカズマがキレイで。
 声が出なかった。
 まるで、風を従わせているような、そんな神聖な雰囲気まで感じられて。自分の手の届かないような存在にすら、思えた。

 華奢な、躰が。
 空を見上げる。

 今にも、その背中に、羽根が見えそうだった。
 あまりにも似合いすぎる、小さな、白い羽根が…

 きっと、自由に舞う姿は本当に、キレイだろうにと思えるけれど。
 でも、それは見たくない光景。
自分の手の届かないところに行って欲しくなくて。


 細く、幼い指先に、風が宿る。
 伸ばされる腕。
 そして、空を見上げるカズマの表情が、幸せそうで。


 狂おしいくらいに、愛しくて。


 彼だけを、見ていた。
 



 だから。




 気づけなかった。
 カズマを、自分の元から飛び立たせようとする、蒼い空からの、御者を。






「カズマァァ!!」
 叫んだときには、もう、遅かった。
 細いからだの前に、すべてをのみこまんばかりの、風の一弾が、迫っていた。


 突然の風からの侵略に、カズマの未成熟な躰が激しくいたぶられる。
 けれど、それは卑猥でもなんでもなくて、ただ風が必死で彼を連れていこうとしているように見えた。
 羽根があれば、きっとその風に乗って、蒼い空へ飛び立っていける…と。


「あぶねぇ!!」


 だから、そう、叫んだ。
 自分を、見て欲しくて。行くな、と。
 
 カズマの存在は、憧れの存在じゃない。
 自分にとってカズマは、そんな客観的に、綺麗な感覚で表せられるものではない。
 手に入れて、自分だけのモノにしたい、醜いほどの、エゴイズム。
 けれども。


そんな、汚い自分を認めてでも。
譲れないと思ったから。

 必死で走って。
 手を、伸ばした。









 触れそうで、触れられなかった一瞬の隙間は。

 どんどん、開いていく、ハズだった。


 けれど。

 光が一瞬カズマの躰から発せられた後。

「…え?」

 開いていく、二人の間はゆっくりと、広がるどころか近づいていく。
 風がぴたっと、やんで。
 そして、落ちていこうとしていた少年の躰がふわふわと、宙に浮いていた。

 その背中には、小さな白い羽根が、ホログラムのようにぽわんっとほの白い光を発しながらぱたぱたと動いていた。


「…羽根?」

 アルターの様な、無粋なモノとは思えない感じだけれどあれはまさしく小さなエンジェルフェザー。

 ふわんふわんっと宙に浮くカズマを、君島は呆然と見つめるだけだったけれど。

「君島ぁ…」

 そう、心持ち頼りなさそうに自分の名前を呼ぶカズマの声で、はっと我に代わり、そして、君島は、目の前の少年の腕を掴もうとして。

「うわっ!!カズっ……!」
「なんだよ!?」

 下から突き上げられるような突風が、今度はカズマをぴゅんっっと空高くに舞い上がらせていった。簡単に風に乗る、華奢な躰を捕まえようとするけれど、まるで君島をからかっているかのように、風の強さが自由自在に変化して、うまく手を繋げられない。

「カズマっ!!」
 
 必死で小さな羽根を動かして舵を取ろうとしているようだけれど、もともと不器用なカズマにそんな芸当が出来るわけもなくて、下から見ている君島は気が気ではなかった。
 ある意味、ピコピコと動く羽根と半分涙目になっているカズマの様子は可愛くて、ロリ心(そんなものをもっていたのか、君島)に刺激を与えられる構図ではあったので、それはそれで、君島的には大いに目の保養をしていたと言っても過言ではないのだけれど。

 しかし、ひゅるひゅると空を暴走している本人にとっては、この状態はたまったものではなくて、どんどん気持ちが悪くなってくる。

「もぉ…やだ…なんか……」

 くたぁっとしてしまったカズマに、君島は慌てる。

「オイっ!!そんなところで、気失うんじゃねーよ!!」

 あの羽根がアルターだったとして、カズマが気を失えばアレも消えてしまう可能性が高いのだ。
 それを裏付けるように、白い羽根がゆるゆるとその姿が薄くなり始めている。


「オイ!!カズマァ!!」

「きみしまぁぁ……」

 伸ばされるカズマの腕が、自分へと素直に伸びてくるのを見て。
 君島は、目を見開く。
 空に向かって伸ばされていた、カズマの細い腕。
 きっと、あの先に、自分がいない世界を、カズマは構築していく存在だと思っていたから。

 カズマが、自分を求めて伸ばしてくれた腕を。
 掴むことが、ラストチャンスだと思った。




 耳に、強い声が聞こえた。


― オレから奪っていくんだから、コイツを受け止めて見せろよ?



「え…!?」




「きみしまぁぁ!!」


 弾かれたように、声の方向へ君島は躰を向けて。
 腕を伸ばして君島に向かって、ひゅんっと落ちてくるカズマの躰を視界に捕らえて、そして今度こそしっかり受け止めてやれるように、自分も手を伸ばした。

 衝撃を覚悟してその体を受け止めようとしたけれど、まるで空気のようにぽすんっと柔らかくカズマが、自分の腕の中に収まった。
 それから、微かな風が、腕の中の少年の髪を軽く、弄んで消えていった。


 ぎゅぅぅっと君島の首にしがみついて、いわゆるお姫様抱っこされるがままになっているカズマの姿に少し口元を緩めてから、静かに額にキスをした。


「き、きみしま!!」


 突然のキスにビックリした表情で、カズマはぴょこんっと飛び上がると同時に、ずんっっとさっきまで羽根のように軽かったカズマの体重が突然君島の腕にのしかかってきた。
 もともと体重も女の子並にしかないカズマだったから、君島的には特に抱き上げることになんの支障もないのだけれど、突然のことだったため、躰がぐらついた。


「「うわぁぁ!」」


 二人の声が、キレイにハモって、そのまま草むらに転がり込んでしまった。
 君島はとにかく、自分の体でカズマが傷つかないようにかばったため、前のめりにだけは倒れないようにした結果、後ろ向きに倒れてしたたか後頭部を地面で打ち付けた。

 ゴンっといい音が響く。

「き、きみしまぁ!!だいじょーぶか!?」

 あまりの小気味のイイ音にさすがのカズマも下敷きにしてしまった男を心配そうに見下ろす。

「イテテテ…」

 眼から星を出している状態の君島の頬にぺちぺちと軽く刺激を与えてるカズマをなんとか瞳に映して、だいじょーぶだと君島はなんとか声を出す。
「ほんと?」
「ああ」

 いつもはタカビーな表情で自分に接してくるカズマの、頼りなげなそれを至近距離で目撃して君島の体温が上がりそうになって、苦笑する。
 君島はゆっくり腕を伸ばして、カズマの小さな頭を自分の方に引き寄せた。

「ん…ぁ」

 少し乱暴に口づけてくる、突然の君島の行為に、カズマはいつもなら激しく抵抗するのだけれど、今日は既にそんな力も、また、抵抗する気もなくて。
 されるがままに唇を君島に捧げた。
 ただ、唇を合わせるだけのライトキスなのに、君島の胸について支えていたカズマの腕ががくがくしてくる。

 するっと、君島の腕がカズマの細い腰に回される。
 
「はぁ…ん」

 アルターを発動させてしまった反動からなのか、普段以上に感じてしまっているカズマの姿が、君島の理性を揺さぶる。

 唇を離して、朱色に頬を染めて、濡れたように赤い唇を少し開いて自分を見下ろすカズマを引き寄せて。
 カズマを腕に抱いたまま、その躰の位置を入れ替えた。

 


 君島は唇をカズマの耳元に寄せ、優しく囁いた。

「アイシテルよ、カズマ」

 その言葉に、カズマは大きく目を見開いて。
 何かを言おうとして、唇を開こうとしたけれど。その唇は、君島に何も伝えることが出来なかった。

 不安が。
 溢れる。
 

「カズマ?」

 自分をしっかりと見つめてくる君島が、痛い。
 けれど、このまま立ち止まっていても仕方ないから。



「オレ、大切にしてもらえるほど、キレーじゃないよ」



 自嘲気味に、そうカズマは呟くけれど。
 そんなカズマも愛しく思えるほどに、君島はカズマを想っていたから。


「キレイだから好きだとかじゃねーよ」

「……」


 君島は両手でカズマの頬を愛しげに撫でる。

「目の前にいる、そのままのオマエが、好きだよ」

 
―それに、オマエは汚れてなんかねぇよ。
 オレが、保証してやるからさ


 その言葉が、本心だと。
 瞳を見れば分かったから。

 カズマは、一筋だけ、涙を零した。


 けれど。泣くのはそれだけ。

 好きだから。傍にいたいから。
  


 君島の心を捕らえて離さない、綺麗な笑顔を浮かべた。



「オレも、アイシテル、君島」


 だから、離さないって、抱きしめて。

 伸ばす腕は、アナタだけに。
 

 再び合わせられた口づけは、とても優しくて甘くて。
 
 アイシテイルヒトの口づけを受けながら、視界に入った空の色は透き通っていて、やっぱり綺麗だと思った。

 幸せだなと想って。
 幸せをくれた、この人をもっともっと感じたくて。



 さわさわと、風が吹いてくる。
 そういえば、あの声は、誰だったのかな…と。

 ふと、視線が右腕に行く。
 ちょっと考えてみたけれど、君島の指がどんどん自分を追い立てて行くから。





 最後にカズマは指を、空に向けて伸ばした。

 ・・・・・・もう少し、羽根を休めても、いいですか?

 そう、心の中で、呟いた。





 きっと、いつまでもこの場所に留まることは出来ないことは分かってる。
でも、今は、もう少しだけ……


 ゆっくり、カズマは瞳を閉じた。





―こんな、真っ昼間から、外でシちゃっていいのかなぁ

―いーんじゃねーの?たまにはさ

 そういって優しく頭を撫でてくれる君島の手が愛しくて。
 カズマは自分から、軽くキスをした。




 いつも走り続けるのは辛いから。

―二人で道草しよう。   
COMMENT:なんだ、この題は・・・そして、なんだか乙女チックな話になってしました。羽根生えたカズ君が書きたかったようです★しかも、あんまり小悪魔じゃないですね、このカズ君。ちなみにコレは、ちょっと昔のお話です★まだ二人とも若い(笑)なので、夢見るバカップルなんです♪といいつつ、ア○カンしてるし・・・
それにしても微妙な話だ・・・ちょっとパラレル入ってる?あ、あの声は誰なんでしょう?てきとーにかんがえて下さい♪うーん・・・でも、ちっこい羽根つけたカズ君可愛くないですか!!きっとクーガーに会った頃のちびカズなら・・(妄想が暴走中)
ところで、途中ちょっとエヴァってるの分かりますか(笑)首がおちたヒトのセリフが入ってます(死)
私の歴代ベストオブ攻めトップ10に入るヒトの名ぜりふ。そこに音程の外れた第九を加えると・・・・(危険発言)
あ、この小説のイラスト、はるかちゃんに書いてもらおうと思ってます☆また楽しみにしてテクダサイにゃ

 イラストみてみる?