さようなら、私・・・編
花音 るり   


 暗い闇が、キモチワルイ。
 自分の上で蠢く生温かい体温がキモチワルイ。
 触れられているところが、キモチワルイ。
 何人もの男に脱がされて、触られて、舐められて。
 抵抗しようとしたけれど、あの鎖が、すべての力を奪っていくから。力が入らなかったから…
 力が入らなくて、もうどうすることもできなくて、悟空は、金色の髪の青年を必死で心の中で呼んだ。

―タスケテ…と。

 そしたら、キィッて暗闇の空間からうっすらとした光と共にドアが開いた。

 声にならない声で、紡いだ名前を心で唱えて、その光の方向を見た。

 けれど。

 漆黒の、髪。
 じゃらっという冷たい金属音。


―…誰?


「何をしている?」

 低い声が、静かで暗い廊下に異様に響く。
悟空の体を押さえつけようとしていた、男達の体が一瞬びくんと震えるのが肌を通じて、感じる。
 その震動すら、悟空には嫌悪感をもたらすものに近くて、ひゅっと息が漏れる。

 冷たい石の床に、組み敷かれたままの少年を、突然現れた黒髪の青年が静かに見下ろす。

 細い手首に巻かれた鎖が、少年の腕を縛り付けている。その鎖に法術の気配を感じて、青年はそれに視線を見遣る。

「こんなところで少年相手に強姦行為とは、神様も暇なことだな」

 冷め切った嘲りの言葉に、男達はざわめく。
 口々に否定の言葉と弁解の言葉を吐き続ける。



 そんなやりとりを悟空はぼんやりとした頭で聞き流す。ゴーカンって言葉は分からないけれど、きっとそれはこいつらが自分にしている行為だってことだろうか?

 ふと自分の体を押さえつける重みが消える。
 がこっと、何かがめり込む音が壁際から聞こえてきた。そして、何人かの悲鳴と、走り出ていく声。

 その後に訪れる、静寂。
 何が起きたのだろうか、という思考。
でも、そんな疑問はどうでも良くて。
 ひりひりと焼け付くようにイタイ、喉から、必死で紡ぎ出すコトバは、やはり疑問文。だけど……

「…アンタ、誰?」

 掠れた、声。

 青年は、その頼りない声に視線を向ける。
 そして、悟空のソレと結び合う。

 光が、青年の顔をほんの少しだけ…照らした。
 悟空の瞳が、その姿を一瞬だけ捕らえる。
 視界がぼんやりしてくるような、感覚。

 そして、誰かに優しく抱きしめられたような温かい体温。

 もう一度、悟空は尋ねようとして、唇を開こうとしたけれど。唇が、柔らかくて温かいものに…支配される。温かいソレは、ゆっくりと悟空の体を溶かしていくようで。

 けれど、必死に瞳を開ける。

 そして、悟空の耳元で囁かれる低い声。


「また、逢えたな、悟空。」
「…え?」


 悟空はゆっくりその顔を見つめる。
 しかし、その顔は逆光で暗い。

 青年の唇が、ゆっくりとコトバを紡いでいく。

「タスケテと言っただろう?だから来てやったよ」

 悟空は首を傾げる。タスケテと呼んだけれど…自分が呼んだのは……金色の髪の青年だったのに……

「オレ…よんでねーけど?」

 少年の、少し戸惑ったような可愛らしい声に、青年はふっと笑いを零す。
 悟空の体を自分の腕中にぎゅっと抱きしめる。
 柔らかくて、少し甘い香りのするこの体。
 ずっと、ずっと見ていたから…

 初めて逢ったのはいつだっただろうか。異端のものだと罵られ、蔑まれていた日々。愛する人を失った痛手で絶望感に浸りきってしまった時。
 花園で…出会った少年。金色の瞳の少年。自分と同じ金目だというのに、ずっと明るくて透き通っていて、誰もを魅了するその輝き。

 自分のものに、したいと思った。
 この子を護りたいと、そう思ってしまった。

「お前の声が聞こえたんだ、悟空」 
 
 聞こえたなんて、ウソ。
 悔しいことに自分には悟空の声が聞こえない。
 けれど…
 悟空が危険な目に合わないように見守ることは出来るから…(それはプチストーカーとも言います)
 
 そして青年は、少年の整った小さな顎をきゅっと手を添えて自分の方に向けた。

 悟空の透明に輝く金色の瞳。
 そして…青年の隻眼に宿る、金色のソレ。

 悟空の瞳が心なし大きく見開かれる。
 金の瞳が、絡み合う。


「聞こえたんだよ、お前の声が」
「オレの…?」
「ああ、だから来てやったんだよ、悟空。お前の為だけに……」


 愛しいものを撫でるように、青年は腕に納まる少年の柔らかい素肌を指でなぞりながら、耳元で囁きかける。


「焔…だ」
「…ほむ・・ら?」
「そうだ、俺の名前だ」


 焔の指が、悟空の唇を優しく撫でる。
 ぴくんっと震える悟空に、焔の口元に優しい笑みが浮かぶ。


「ほむら…?」


 少年の口から、自分の名を呼ばれることにくすぐったさを感じつつも、焔はその首をゆっくりと縦に振る。

 そんな焔に悟空は、眩しいくらいに澄んだ笑顔を向けた。保護者に常日頃から、無防備に知らない人に笑いかけるなと禁止されていることなど、悟空の頭から宇宙の彼方に放り出されていた。

 そして、ぽわんっとした表情で悟空はにっこりと焔に微笑みかける。細い腕が、焔の首に掛かる。


「…悟空?」
「焔は、オレを助けに来てくれたの?」

 その言葉に、焔はゆっくりと頷く。
 そんな焔に悟空はきゅっとしがみついた。
 華奢な少年の背中に、焔は腕を回す。素肌が、しっとりと焔の指を絡め取る感覚。
 悟空は少し身じろぎして、焔の腕の中でくるんと方向転換を試みる。
 互いの顔が見えるように、向き合い、焔の膝の上に悟空はちょこんっと腰を下ろした。

 悟空の大きな瞳が、じぶんをじっと下から見つめてくる。その可愛い表情に焔の心が激しく鼓動を打つ。
 平然と受け止める表情を無理に作る焔であったが、そんな水面下での努力を水の泡にするかのように、悟空はその頬を焔の広い胸に寄せる。

「オレはお前を助けに来たんだ…
 お前の、お前だけの……正義の味方だよ」

「…え?」

 焔のコトバにくいっと上を向いて悟空は、何の汚れもない幼く可愛らしい笑顔を向けた。憧憬に包まれたような、はにゃんっととろけきった表情の悟空に愛しさがこみ上げる。

「焔って…正義の味方なの?」
「ああ、そうさ。」

 悟空のヒーローになるために、努力を積み重ねてきた日々を思い浮かべる。
 すべての悟空の好みを把握し、すべての要求に対応できる、悟空専用のヒーロー。正義の味方だ。
 ルックスはもとからよいと自負していた。
 悟空の好感度上昇の決め手である金色の髪ってのが自分にはない唯一のものだったが、それはこの美声でカバーしきるしかない。金色に染めるのだけはちょっと自分のプライドが許さなかったから。

 そう、悟空の保護者、自分にとっては邪魔な存在の男に対して。


「…焔って、カッコイイ!!!」

 目の前の少年は既に目がハートだ。さっきまで強姦されそうになっていたとは思えない回復力だ。まさか慣れてるとかいうんじゃ…?!

「お前、あんな目にあったことは今まで何度もあった…とか…」

 焔の問に悟空は無邪気にこくんっと頷く。

「あるよぅ?暗闇に連れてかれるんだ…で、しんたいそくてい、とかゆうのするって言うの…」

 そのエロオヤジすぎるコトバをかける神も神だが、そんなアヤシイコトバにまんまと着いていく悟空も悟空だ…

「でね、オレの服とか脱がしたりするんだ。きもちわりーんだよ?」

 ちょっと嫌な顔をして俯く悟空に焔はエロオヤジどもに激しい殺意を抱きつつも、そんなオバカな悟空の可愛さにかなりメロメロってしまう。

「さっきもさ、おいしいお菓子あげるってゆって連れてきたクセに…くれないんだもん。しんじらんねー!」

というか何度もこんな目に合ってるなら、いい加減ウソくらい見抜けと思ってしまうが、いや、その純粋無垢さ加減がまたいいのではないか、とは悟空バカの戯言。

しゅんっとしょげてしまっている悟空を焔はゆっくりと抱きしめる。

「大丈夫だ…オレが護ってやる。お前を傷つけるものすべてから…」
「……焔?」

 だってオレは悟空だけの正義の味方、ヒーローだからさ…とコトバを続けようとしたが。


ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ


「……」
「……」
「………」
「………てへっ。鳴っちゃった」

 甘い雰囲気に持っていこうとした焔の計画を水泡とかした間抜けな音が、可愛い悟空ちゃんのお腹からぐもぉぉぉっと鳴り響く。
 けれど。
 てへへっと恥ずかしそうに自分を見上げる悟空の姿に焔の心は悲鳴をあげっぱなしだ。正義のヒーロー、エロオヤジ丸出し。

 そんな焔をじっっと見上げて、可愛いほっぺをほんのり赤く染めながら悟空は、指先でつんつんっと自分を抱きしめる広い男の胸をつつく。

「ねぇ…ほむらぁ……」

 少しうるんだ瞳を向け、ぱちぱちっと瞬きをする。
 計算なのか天然なのか分からないところが、焔の心を微妙にねらい打ちする。

「オレ……おなかすいたよぅ……」

 うるるるんっと涙で儚げに訴えるおねだりにしては、色気がなさ過ぎる観もなきにしもあらずだが、既に昇天しそうになってる正義のヒーローには聞こえていないようだ。


「悟空!」


 がしぃっと細い悟空の肩をぐっと掴むと、そのまま床に押し倒す。そういえば忘れていたが、悟空の腕を縛っていた法術つきの鎖はそのままだった。しかも、ヤって下さいとばかりに上半身裸で着衣乱れ中だ。

「ほ…ほむら?」

 突然床に倒されて悟空は頭の中がパニックになる。
上から覆い被さってくる男の体温は、さっきの男達に比べて全然嫌悪感なんてないわけだが。

「どしたの・・?ほむら?」

 目の前で風船を割られてしまった子リス(わけわかりません)な表情をしている悟空の額に優しく唇を寄せた後、耳元で静かに囁く。

「お前を助けてやったオレに、何かご褒美はくれないのか?」
「……え?」

 正義のヒーロー、せこいです。見返り求めてます…

「……っていうか、オレ、タスケテってゆってな……」
「そういうことを言う悪いコはオシオキだ。」

 自分もかなりのオヤジ的セリフになっているのは気付いていないようです。

「その後に、ちゃんと、お前の欲しいものを何でも与えてやるよ?」

 焔のその言葉に、悟空は大きな瞳に涙を浮かべてしまう。だって、自分には今何もあげるものがないから。
そして、何かあげないとお菓子ももらえない。

「焔の意地悪ぅ。オレ、何も持ってないもん…」

 そんな可愛いセリフに焔の口元は緩みっぱなしだ。

「あるだろう?」
「え…?」

 焔はそういうと悟空の首筋に唇を這わせる。滑らかで、意外と白い肌の感触が焔の心を圧迫していく。

「お前のカラダ、食べたいな」

 オヤジ度MAX。いや、今時のオヤジでもそんなべたなセリフは言わないかもしれない。

「!?焔!?オレのこと、食べちゃうの!?」

 悟空はふみゃあああっと泣きそうになってしまう。自分がおやつになるなんて、やだよぅと訴える悟空の瞳から溢れる涙を焔はぺろっと舌で舐め取る。涙なのに、どこか甘い味がしたような感覚。

完全に焔、悪役になっているけれど、気付いちゃいないようだ。

「大丈夫だ、悟空。全部は食べないよ」
「…!!や…んぁ!」

 かりっと胸の敏感な部分に歯を立てられて、小さく悲鳴をあげてしまう。

「やだぁ!!やだやだやだぁぁ!!」
「悟空、大丈夫だから。暴れるな」

 ぐいっと焔は悟空の唇を自分のソレで塞ごうとする。


「やだぁ…あっ……」


 必死で顔を背ける悟空の口から、悲鳴が漏れた。


「ダレカ!!タスケテ!!!!」


 
どかんっっっっ!!!!


 大きな音がして大理石で作られた屋根が崩れ落ちる。

「…!?何事だ!?」

しゅたっと何かが砂埃の向こうに下り立つ音がする。

すさまじいまでの殺気を感じて焔はその金色の隻眼をゆっくり細める。

「なーに、人んちの可愛いペット、泣かしてくれてんだ?今晩のサケのつまみに料理してやろうか?このヘンタイヤロウ」

 少しふざけたような口調の中に真剣な怒りの声色が含まれた男の声が聞こえてくる。
 その声に、組み敷いた小さな少年のカラダがぴくんっと揺れる。

「そうですねぇ…僕の大切な悟空を泣かせた上に、そんな淫らな行為を強要する正義の味方とは…世も末です。私があなたを骨の髄までしぼりとって料理しちゃいましょうかね」

 ふっふっふっふ、とキランと何かが光るのが砂埃の向こうからのぞく。ずざっと靴音が焔のトコロに徐々に近づいてくるのを、空気の動きだけでも感じ取ることが出来た。


「……来てくれたの?」


 安心したように呟く悟空に視線を落とす。

「……知っている、奴らなのか?」

 焔の問に悟空はにっこり笑ってこくんと頷く。
そして、その小さな紅い唇から紡がれた言葉は焔を衝撃のただ中に陥れた。


「だって、あの人達、僕の正義のヒーローだもの」
「…!?」


 驚きのあまり硬直してしまう焔に容赦なく降りかかる砂埃。一瞬、魂が抜けてしまったかのような衝撃を食らってしまう。


「おい、てめえ。さっさとウチのサルの上から降りやがれ」


一際低い、険悪な声が頭上に降りかかり、焔ははっと後ろを向く。
 そして、そこに金色の髪を持つ人物。
 その後ろに短髪の男と長髪の男。
 それぞれの顔には、見るからに怪しい白い仮面。

「お…お前ら……」
 ぐいっと顔面に拳が振り下ろされ、焔は間一髪のところでカラダごと避ける。
 自由になった悟空は、助けてともう一度3人に叫ぶ。
 

「タスケテ!ちゅーかマン戦隊!!」

「何だと!?」


 悟空のコトバに焔は息を飲む。正義のヒーロー界広しといえども、このちゅーかマン戦隊の名を知らないのはモグリとまで言われているのだ。史上最悪のくせになぜか正義の味方、強さではピカ一とされているのだ。そういえば、この3人に可愛いご主人様ができたというウワサをかねがね聞いていたのだが…

「…それが、悟空だったってわけか?」

 低い声に、さらにドスが聞いてかなりの凶悪な声音で焔は呟く。
 もともとちゅーかマン戦隊は気に入らなかったのだ。焔的には正義の味方は1人で行動するべきだという、仮面ライダー派の焔には、戦隊モノを支持する勢力の強い今の現状が許せず、その代表格とも言えるのが、このちゅーかマン戦隊なのだった。
 実のところちゅーかマン3人も、別に仲がいいわけでもなく、ただ悟空に「3人でオレのこと護ってね」と可愛くおねだりされてしまったからだけなのだが…そんなことは焔の知ったことではないが。

 焔は悟空を抱き上げる。
 何があっても、悟空だけは渡すわけにはいかない。

「悟空は、もらう。お前達には、消えてもらうぞ」

 そう言うと焔は背中に背負った太刀を片手で持ち、体勢を整える。


「…どうしますか。ゴールドちゅーかマン?私的にはさっさと殺っちゃいたいんですけど。かなり目障りですから☆」


 そういいつつ、既にその手の中にはバスケットボール大の気の弾がいつでも発射されるようにスタンバっている。

「オレも、グリーンの言うように、さっさと終わらせて、悟空とお楽しみタイム過ごしたいんだけどな」

 錫杖を不穏にカシャンっとならしてレッドは挑発する。悟空が焔の胸の中に抱きしめられている、それだけで
レッドの頭の中は嫉妬で溢れ返ってしまう。
 それは笑顔を浮かべている(と思われる)グリーンにも言えることだろうが。


「お前ら、ごちゃごちゃうるせーんだよ」

 しかし、そんな熱い二人の気持ちを冷たくしてしまうくらいの冷え切った低い声が辺りに響く。
 悟空ですら、その冷たい声に萎縮してしまう。
 激しい怒りを通り越してしまったような、感情のない声。


「さっさと終わらせるぞ。
 …バカザルに、また教育しなきゃなんねーからな」


何の?とは、さすがにきけない状態だったが、グリーンは焔の一瞬の隙をついて、気の弾丸を焔にめがけて放つ。

「レッド!悟空を!!」
「ああ、まかせときな!」

 焔がその気砲を霧散させるために術を編み出した瞬間に、レッドは素早い動きで後ろから、焔の腕の中の小さな少年のカラダを奪い取る。


「チィ!」


 舌打ちをして後ろによろめく焔は、悟空がレッドの腕の中で抱きしめられているのを目の当たりにして、怒りが最高潮に達する。

「悟空は、必ずオレのものにしてみせる」

 そう言って二人にめがけて太刀を下ろそうとしたとき。

ブチッ


「…」
「……」
「………」
「…………今の、何か切れた音って……」

 おそるおそる4人は何かが切れた音の下ほうに視線を移す。

「「「「……」」」」

 凶悪な色を宿した紫紺の瞳に、3人はぞっとしないものを感じ、1人は、ほわんっとそんなゴールドの姿に憧れの瞳を向けるオバカザルに分かれる。

「どうも切れたのは、ゴールドの数少ない理性の一本だったのかも知れませんね……」

 はははっと乾いたグリーンの声が空しく砂埃の舞う、元豪華な部屋に響き渡る。

「さっきから聞いていれば…悟空は誰のものだと思っている!?オレが拾った。オレのものだ」

 その言葉に、レッドの腕の中に抱かれていた悟空は小さく、声をあげる。

「どうした?悟空…?」

 悟空の表情が強ばったことにレッドは怪訝な顔をするが、悟空は小さく首を横に振った。


「何でも…ない」

 そういうと何かをうち消すように悟空は笑顔を見せる。
 レッドもその悟空の表情が気になったものの、ゴールドからの鋭い指令に悟空をとにかく安全な場所に避難させた。


「さっさと、終わらせるぞ」

 そういったのち、ゴールドは二人に命を出す。

 その言葉に二人はピンとくる。

 アレをしようというのだろう。
 レッドとグリーンは一瞬焔に憐れむような視線を向けるが、素早く二人とも自分の持ち場に着く。

 焔は目を細めて悟空を見つめる。

「孫悟空、こいつらに勝って、オレはお前を頂くぞ」

 焔の金色の瞳が強く3人のいる空間を見据える。

 両方の体勢が整えられる。
 ゴールドは小さく呪文を唱え始める。
 静かな空間に低く呟く声が響く。

 焔は太刀を前にして、ちゅーかマン戦隊からの攻撃を捉えるため、少し瞳を細めた。
 その瞬間だった。

 レッドが錫杖を空高くに掲げ、それに向かってグリーンの光の気砲が放たれる。
 眩しい光が、暗い部屋中に満たされる。(そういや、ここ部屋の中だった…)


「あー!!この技は!!」


 悟空の至極嬉しそうな声を横に聞きながら、焔はゴールドの動向を目で追い続ける。

 錫杖に集められた光が、黄金から白銀に変わっていくのを見計らうかのように、ゴールドは懐から何かを取りだし、天井に向けて掲げた。


「光を集いて、ここに力を与えよ!」


 ゴールドの声が響いた一瞬の後、錫杖の白銀の光がそのまま掲げられた物体に吸収されていく。


「…!?なんだ、コレは!?」


 悟空はきゃーーーーーっ!!と喜びの悲鳴をあげている。


「ちゅーかマン戦隊の合同必殺技、ジャイアント肉まん!!!」


 すげーすげーうまそう!!!!というオバカザルの叫びは横に置いて、焔は目の前に広がるあまりな光景に息を飲む。


「宙に…巨大肉まんが…浮いてる……」


 これでどう攻撃を…と思って、焔ははっとする。



「まさか……」



 にやりと白い仮面が嫌な笑いを浮かべたように焔には思えた……

「その、まさか、だよ」


ゴールドは気球以上にでかくなってしまっている、この世のものとは思いたくない巨大肉まんを軽々と持ち上げたまま、焔の方に向く。

「ゴールド最大の奥義!ジャイアント肉まん DE 潰しぃぃ!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 巨大肉まんが焔に向かってまっしぐらに飛んでくる。
 闇にはみ出した肉は異様に紅く、ピリ辛肉まんだと言うことが推測される。
 あまりの現実離れした現状に、バカみたいにつったったままの焔の頭上に巨大肉まんがセットされる。

「すげぇすげぇ!ゴールドってば、あんな巨大肉まんを手を使わないで運べちゃうんだモンな!」

 悟空の無邪気な声が、焔には今だけは恨めしく感じてしまう。


「グラビデ!!」


 三人の声が、一つの呪文を唱えたと同時に、

ドスン!!!!

 肉まんがそのまま地面にめり込む。
 そして……焔は。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

べこっ!!!

 間抜けな音をたてて巨大な肉まんが地面にめり込む。
焔の姿はすでに見えなくなっていた…今頃はピリ辛肉団子にまみれて、窒息しかけているのだろう…。


「悟空、大丈夫か!?」
 レッドとグリーンが、床に横たわる悟空の元へ駆け寄ろうとした時、ゴールドの厳しい声音が響き渡った。
「悟空!」

「……ゴールド…?」

 悟空はカラダを起こし、ゆっくりと近づいてくるゴールドの白い仮面に視線を集中する。

「あれだけ、いつもバカな男に付いて行くなといっていただろうが」

 そのコトバに悟空は少し俯いて、ごめんなさいと謝る。けれど、悟空にはそれどころじゃない、さっきのゴールドのコトバの真意だけが聞きたくて。

 ふんわりとゴールドの腕が自分の体を抱きしめる感覚。悟空はびっくりしてその白い仮面を見つめる。
 よく知る、感覚…そう、コレは……

「……ゴールドは…金蝉なの?」

 頼りなげな悟空の声に、金蝉の鼓動が一瞬波打つように大きく感じられた。

「……そうだと言ったら…?」

 つっとゴールドの指が、悟空の顎にかけられ、上を向かせる。この金の瞳の前では…ウソはつけない。なにもかも真実を見抜いてしまう、それ程までにキレイで、透明な輝き。

 悟空の細い指が、少し遠慮がちに。青年の顔を隠す仮面のマスクを外していく。

 そして、ゴールドの素顔が、悟空の金色の瞳に映し出されて。
 
 悟空はにっこりと、幸せそうに、愛しげに彼へ微笑んだ。

 止まってしまった空気を、柔らかい流れを呼び込むように、戸口から風が舞う。
 二人の視線が絡み合い、そして……

「好き・・金蝉」

 重ねられた唇から、紡ぎだされるコトバが、その静寂に優しく、響き渡ったのだった……


            ・
            ・
            ・

「ていうか、俺達のこと、忘れてない?」
「いや・・忘れられていますね……」

 二人ははぁっと呆れ返った溜息をつく。

「むかつくなーゴールドのヤロウ」
 はっきりいってアイツがやったのは、肉まんを懐から出しただけじゃねーかとレッド。
「ええ、そーですね。ま、次は僕が…ふっふっふ」
 何かを思いついたのか、ムダに悪寒を生み出す笑い声を背負いながらグリーンはくるりと後ろを振り向く。
「…ていうか、この人は一体何しに来たんでしょうか…?」
「……ごしゅーしょーさまだな……」

巨大肉まんを見て、二人は手を合わせたのだった……


 

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「うわぁぁあぁぁぁ!!!」


がばぁっっと起きあがる。

「ど、どうしたんですか!?焔?!」
「何1人で叫んでやがるんだ?」

 聞き慣れた二人の男の呆れ声に、焔はゆっくりと目を開ける。

「ちゅーかマン戦隊の必殺技で巨大肉まんがぁ!!」

「…」
「……」

 二人の憐れむような瞳にぶつかり焔は今まで見ていたのは夢だと言うことに気付く。

「焔、お前働き過ぎなんだよ…確かに新世界創造に時間がないのは確かだが…」
「ええ、ここは私達に任せて、あなたは少しお休みになった方がよろしいかと」

 二人のねぎらいのコトバに、焔は今の自分の立場をなんとか思い起こす。そう、一週間ほど前に下界の妖怪を掌握した。
 次は新世界創造の鍵となる、孫悟空をいかにして手に入れるかの作戦を練り、それに従って今は下準備中だった。

 ダンディがモットーの自分がこんな醜態を晒してしまったことに腹が立ってしまうが、だからといってこのまま休むわけにも行かず。

 焔は、二人の提案を辞退し、作戦の準備をやろうと周りを見渡す。

「……っていうか、ココは……」

 電子レンジに大きな釜。そして大きな丸テーブルの上には白い粉が一面に。
 慣れた手つきで何かをこねては打ち付けている二人の姿に嫌な予感を覚える。

「なーにボケてんだよ?」
「そうですよ、焔。『孫悟空捕獲作戦プロジェクトX 肉まんで釣ろう』。コレあなたが考えたんじゃないですか」

 二人が箱いっぱいの肉まんを焔に見せた。
 それを見た焔が卒倒してしまったのは、言うまでもなく。

 うんうんうなされながら、「肉まんに押しつぶされる最期だけはイヤだ」と何度も叫ぶ焔の様子に、部下二人は本当にコイツについていっていいものかと本気で頭を悩ませてしまったのは、後日談……


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「ねー八戒☆この話読んで?」
「…?ああ、ちまたで人気のちゅーかマン戦隊ですね」

 にっこりと笑って悟空はベッドの中に潜り込む。
 少しだけ顔を出して話を待つ悟空に、八戒はくすっと笑うと悟空のベッドの近くにイスを寄せる。

「すっげーかっけーんだ!必殺技は巨大肉まんで押しつぶすんだぜ!!」
「……ははは…」

 乾いた笑いしか出せない八戒だったが、悟空はそのお話に夢中のようだ。18才とは思えない幼さだが、そこが悟空の可愛いところだと苦笑する。

「オレも、ちゅーかマン戦隊に入りたいなぁ……」

「そうですね、悟空ならきっと、なれますよ」
「うん」

じゃあお話読んであげますから…

八戒の優しい声を聞きながら、悟空は目を閉じる。
なれたらいいのに。巨大肉まんが必殺技なんて、なんかもう最高ジャン?

 そして、ゆっくりゆっくり悟空は夢の中に落ちていった……
 
 焔と同じ夢を体験したのか、また違ったちゅーかマン戦隊物語を見たのか…
 とにかく、その日は楽しい夢を、見れる気分。
 そんな悟空ちゃんでした。

 そしてそんな可愛い寝顔を十分に楽しんだ八戒も、幸せいっぱいだったとかなんとか…


  〔寒(カーン)〕



〈コメント〉
・・・コメントのしようがありません・・・いや、初めはほむくう一色で、めっちゃシリアスにしようと思っていたんですよ!?なのに、なんでこんなコトに・・・・ちゅーかマン戦隊・・・わけわかりません。最初のシーンはシリアスにしようと思っていたときの名残です、ここら辺だけ雰囲気違います・・・ヤオってません(笑)
っていうか、押しつぶされた焔はどうなってるんでしょうか?
で、一応最期は八戒にオイシイところを持っていって貰いました・・・なんかウチの八戒っていつもこんなだな・・・。
ところで途中途中でいろんなトコロから、いろんなものパクって来ていますが、気にしないで下さい(笑)
BGMはアニメ店長主題歌で(笑)ってわかるかぁぁぁ!!