触れていることが、とても好きだった。
 いつもいつも、あのひとだけを見てた。
 大きくて、優しい腕。すぐに怒るけど、ちゃんと自分のことを見てくれる、大好きな人。
 太陽みたいな人。この人さえいれば、他には何も、いらなかったのに……。

 眼前に染まる赤い色。
 とても綺麗な色だけど、コワイ。
 こわくてこわくて、分からなくなる。
 何も見えなくなって、助けて欲しくて…。
 腕を伸ばして、あの人を呼ぶ。
 どうして、この色しか、見えないの?
 見たくないよ。
 お願いだから、もう一度だけ。
 太陽みたいな、金色の光を見せて。
 染まる太陽、真っ赤な…真っ赤に燃える
 その先にあるモノ。
 恐怖、孤独、絶望。
 そして、大切な人の「死」……

  **  **  ** **

「さんぞーー!!」
 ぽすんっ!と、ベッドに飛び込んできた小猿が一匹。ぐあっという悲鳴がその中から聞こえてくる。
 飛びついたものの、布団とともにベッドから滑り落ちた悟空は、もう一度、よじよじとのぼる。
「起きなきゃ、だめー!」
「うるっせーんだよ、このバカ猿!」
 がばあっと、起きあがって、いつも携帯愛用ハリセンで少年の頭を容赦なく叩く。
「いてーよ!!!」
 うにゃーーと、目を潤ませて三蔵を見つめるが、そんなことでだまされはしない。
「おめーに痛覚なんて必要ねーんだよ!」
ったくよー、と不機嫌の典型的な表情で、三蔵はベッドの横にちょこんっと座る少年を睨む。
 しかし、そんな苛めも悟空にはあまり効いていないようだ。無邪気になついてくる悟空の瞳が、透明な輝きを見せる。
「ほら、見ろよ!外!!」
 悟空は嬉しそうにそういうと、近くの窓を開ける。朝の澄んだ空気がこもった部屋の空気を新鮮にしていく。
 今日もいい天気のようだ。
しかし、今は真冬。冬の澄んだ空気は、同時に肌を刺すような冷気も伴う。
「ほら!さんぞー!!」
ねえねえ、と未だにベッドから降りない三蔵の腕を引っ張って、悟空は窓際に移動する。
「何なんだ、一体・・」
 嫌々ながらも三蔵は窓辺に立つ。
鼻孔がつーんと痛くなる、この感覚がムカツク。
「ほら、まーーっしろだよ??」
「はあ?」
 そういって、悟空は体を乗り出して外を指す。
その指の先には、確か昨日までは空き地があったはずの茶色い土地が、一晩のうちに降り積もった雪で、一面真っ白になっていたのだった。
「ねえ、ねえ、さんぞー。アレ、何?」
「ん?」
「なんで、あんなに白くなってるんだ?」
 どうも、コレを見るのは初めてのようだ。不思議でたまらない、という瞳で、見上げてくる悟空は本当に小動物のようで、可愛い。八戒あたりだと、僕たちの可愛い天使ちゃん、などとほざくのだろう。
「コレは雪だ」
「雪?それって、おいしいのか?」
「…」
 首を傾げて尋ねる悟空に脱力する。結局はそれか・・。
しかし楽しそうに、窓縁にひじをつきながら外を眺める悟空を見て、まあ、いいか、と思い直す。
「なあ、なんかすっごくふわふわしてそー!」
甘いのかな?なんて、はしゃぐ様子はお子様だ。
「・・あのなあ・・。あれは綿菓子じゃねーんだ」
「甘くないのか?」
「あたりまえだ。もとは水なんだからな」
 こつんっと悟空の頭を叩く。
相変わらずの、いい音。
「みずぅ??あ!もしかして!!」
 窓縁にちょんっと腰掛けると、悟空は、得意げに三蔵を見つめた。
「かき氷だ!」
 ごつん!
 さっき以上にいい音だ。
「いってーー!何すんだよ、この凶悪さんぞーー!」
「うるせーんだよ。オレの側にいたいなら、静かにしてろ!」
「…・」
 その言葉で、とたんに大人しくなった悟空を見下ろし、三蔵は、再びその雪景色に視線を戻す。
純白の雪原。誰にも犯されていない、白い雪。足跡のついていない、神聖なモノすら感じてしまう情景。
「・・処女雪だな」
 ぽつり、三蔵は無意識に漏らした言葉を悟空は、聞き止める。
「なに?ショジョユキって?」
どうも、悟空の甘えたモードが強化中のフシが見える。いつも以上に甘えた口調。
こうした原因は、多分…。
 嫌な考えが三蔵の頭を過ぎた瞬間、隣で悟空が小さく、くしゅん!とクシャミをする。
 そりゃそうだろう、悟空は、この寒い中短パンに薄いTシャツ一枚だ。
すらっとのびた細い足は、思いの外白く、起きたばかりの三蔵の目にはちょっと、キツイかったりもする。

「・・窓、閉めろ」
「ええ〜〜」
 やだぁー、と言ってブーイングを漏らすが、三蔵は自らの手で窓を閉め切る。
「カゼを引かれたら、面倒なんだよ」
「…じゃあ、ここで外見てる…」
 どうも雪景色が気に入ってしまったらしい。悟空は窓から離れようとしない。
 どこまでお子さまなのか、と呆れてしまう。こんな雪のどこがいいのか?
まあ、すぐに飽きるだろうが。
「…ったく…」
 今日朝起きて何分間の間に、どうして、こうもため息をつかねばならないのか?
 三蔵はゆっくり窓縁を離れた。
悟空の、すこし潤んだ瞳が側にいて欲しいことを訴えてくるのを感じる。
・・・しかし黙殺。
「さんぞーの、バカぁ・・」
 三蔵の、その態度にぷうううっと、頬が膨れる。
 悟空は、どうもかなりこの雪景色に感動したらしい。それを三蔵にも見せて上げたかったのに・・。
「…たく、このバカザルが…」
 くしゅん!
 もう一度小さなクシャミをもよおした、瞬間。
ふわっと、誰かの腕に包まれる感覚に悟空はびっくりする。
でも、それが自分の良く知る、大好きな人の腕の中ということにすぐ気づき、きゅうっっとしがみつく。
「さんぞーー!」
「これなら風邪ひかねーだろ」
「ん!」
 三蔵の腕に悟空の柔らかい頬が触れる。
なめらかで、柔らかいその感触。
子供体温な悟空は、温かく、抱きしめる腕にも力が入る。
 意外と柔らかい悟空の髪からのシャンプーのほのかな香りが、三蔵の鼻孔をくすぐる。
(八戒のシュミからか、悟空専用に桃の香りのようだ)
 背中から抱きしめているためか、悟空の首筋があらわに見える。
先ほど見た新雪と、目の前の肌が複雑に錯綜し、ゆっくりと、三蔵はそこに唇を寄せる。

「やあん!」
 
ぴくんっと、ちいさく震える体の反応が面白い。
でも、ここまで優しくしてやってるんだから、別にいいだろう、コレくらい。
それに、コイツは、オレの・・
「ペットだしな・・」
不穏な三蔵のセリフに気づくことなく、ペットちゃんは文句をたれる。
「さんぞー?くすぐったいじゃん!」
 一生懸命腕の中で方向転換を試みる悟空に苦笑しながら少し腕の力を緩める。
 その瞬間、別の甘い香りが悟空の体から空気を通して、ほわっと辺りを包む。
「甘い・・」
「どーしたんだ?」
 方向転換に成功した悟空は下から、三蔵の少し怒ったような顔を見上げる。
 少し、不安げな悟空の表情。イタズラをして、怒られるときの様な、見えないしっぽは、たれさがってしまっている。
「お前、オレが起きる前、なにをしていた?」
 厳しい口調と、視線。
「え?・・えーとぉ…」
 悟空は、ちらっと上目遣いで三蔵を見上げると、すぐにうつむいて小さな声で、ぼそぼそっと答える。
「お腹空いて、オレ、八戒んとこ、行ったよ?」
「…」
 無言で先を続けるように促す三蔵。
「それで・・、朝ご飯には早いからって、ホットミルク作ってくれた」
 先ほどの甘い香りは、八戒手作りホットミルクのようだ。悟空特別仕様の甘甘ミルクなんだろう。
「それだけか?」
「うん、そーだよ?あ、でも、八戒も飲みたいって言ったから、分けてやったよ?」
「?」
 えーとねぇ…、悟空は、そういうとちょっと背伸びをして三蔵の唇に軽く自分のそれをあわせる。
 柔らかい悟空の唇の感触が残る。
「…そうやって・・か?」
 三蔵の声が一オクターブ下がり、悟空の背中に回されていた指に力が入る。
 しかし、そんな変化に気づくほど、悟空ちゃんはいい性能ではなく、楽しそうに、にこっと笑って頷く。
「うん!いーつも、ちゅーして、オレの分あげるよ?」
 寝耳に水とはまさしくこのこと。
目の前に、にこにこ営業スマイルで後光を従えながら笑う八戒の姿が浮かび、自然に目が細くなる。
 腕の中では、悟空が三蔵の胸にもたれて気持ちよさそうに甘えている。
こんな風に、八戒にも甘えているとしたら、あるイミやばい。
コイツに貞操観念を求めることは無理な気もするので、こうなったら、学習理論で覚えさせるのが一番だろう。
「おい、悟空」
「何?」
「お前、今いくつだ?」
 胸からぴょこんっと顔を上げると、悟空は数度首を傾げつつ、指折り数えていく。
そして、・・ぱあっと、明るい顔になると得意げに言い放つ。
「えーと、18だ!!」
「・・18か。じゃあ、もうオトナだな」
「ん!」
 意味が分かってるのかよく分からないが、元気に返事を返す小猿に、小さく笑うと、
顔を上にあげて、目を閉じるように指示する。
「こーするのか?」
 何の疑いもなく、悟空は三蔵に言われたとおりに首をのけぞらせて、目を閉じた。
「そうだ、それでいい」

 三蔵は悟空の赤い唇に自分のそれを重ねる。悟空からのキスと違うのは、ここから。
 ゆっくり悟空の唇を開かせて、舌を入れ、絡ませる。

「ん、あんん!・・」
 
 悟空はびっくりして必死に抵抗するが、意外と力のある三蔵にかなわなくて。
その上、三蔵の舌はどんどん悟空の口腔を犯してくる。
まるで力を吸い取られてるかのように、自分の躰から徐々に力が抜けていくのを悟空は感じて。
思わず声上げてしまう。

「や、はあ・・」
 
喘ぎとともに今まで感じたことのない、何かの感情がココロの中から沸きだしてくるようで、
悟空は怖くて怖くて、自然と涙が溢れてくる。
 それなのに、なんだろう、すごくふわってした、いい気持ちにもなってきて・・そして、不意に離れる。

「さんぞー・・」
 ぽわんっとした表情で三蔵を見つめる悟空の金色の瞳は、真珠の涙をたたえている。
 ほのかに赤く紅潮した頬が、初々しくて三蔵は満足げに微笑む。
ほとんど自力で立てない悟空を、三蔵はベッドへと運んだ。
 きしっと、音を立てる。
さっきまで三蔵が寝ていたためか、ぬくもりがほのかに感じられ、悟空は嬉しくて、はにゃんっと笑ってしまう。
 危機感がないとは、まさしくこのことだろう…
「何わらってんだ?」
 仰向けに横たえられた悟空の体に覆い被さるように、ゆっくり三蔵はベッドにのぼる。
「さんぞーの香りがするんだもん!」
 えへへっと笑って三蔵の首に手を回して抱きつく。
 そんな悟空からも甘い香りがして、理性の働きが一時中止に追い込まれる。
 悟空の着ているモノはTシャツと短パン。
脱がせるのに時間がかかることもなく、するっと手足から抜き去る。

「さんぞー・・何するんだ・・?」
 
ここまで来て、さすがにちょっと心配になってきたのか、悟空は恐々三蔵に尋ねる。
「いいから、オレに任せておけ」
 そう、普段は滅多に見せない優しい声を悟空の耳元で囁いた。
その息がくすぐったくて、悟空の体が微かに反応する。

「やあ・・さんぞお…」

 甘える悟空の腕をはずし、三蔵はその腕を一つにまとめて、頭の上で押さえつける。

「あ・・」
 
ぞくっとくる、紫の瞳。甘い声と、瞳の冷たさがアンバランスで悟空は無意識のうちに体をひいてしまうが、勿論、そんなことを三蔵は許すはずもなかった。

「・・三蔵、コワイ・・」
 
訴える言葉を完全に無視して、先を続ける。

「キス以上のことを、教えてやるよ」
「先・・ふぁ・・んん・・」
 
 上から降りてきたキスに完全に翻弄される。
舌の侵入はなんだか気持ち悪くて、悟空は頑張って抵抗するが、やっぱり、耐えきれずに開いてしまう。
「あっ・・っ!」
 三蔵の舌が絡み、そのたびにココロに何かがのぼってきそうになって、ぽろぽろ泣いてしまう。

「も、やだよ・・」
「いやだなんて、思わなくしてやる」
 三蔵の唇が徐々に舌に降りていく。
首筋をいたずらになめ上げられ、悟空は悲鳴を上げそうになる。

「ん!」
 肌をきつく吸い上げられた、ちくっとした痛み。
そして、縛めていた手をほどくと、さんぞうの指は、胸の飾りへと愛撫を開始する。

「躰から、しつけてやる」
「ふぁ・・あ・・やだぁ・・」

 左手は悟空の右の果実を。
唇は、左の果実を丁寧になめ上げる。
2カ所同時に攻められるのが、ツライのに、だんだん気持ちよくなってくるのも正直な気持ち。
慣れてきたのかな、そう悟空が思った瞬間、三蔵の右手が悟空自身に触れる。

「やだ!やあ!!」
 誰も触れさせたことのない、自分自身。それに触れられて、心底怖くて、必死で逃げ出そうとする。
「大丈夫だ、悟空。」
「やだ・・さんぞー・・ぁん・・んん」
 強弱均等な刺激を与えられて、痛くてたまらない。
なんでこんなことになってるのか、分からなくて。
「んんん、そこ、ダメぇ…」
なで上げてくる指の動き。
どくんどくん、っと何かが脈打つようで・・。
でも、三蔵の指の感覚がとても優しくて、だんだん落ち着いてくる。
胸への痛みの刺激の緩和剤。
「気持ちいいか?」
「あ…うん、さんぞー・・」
 悟空は恥ずかしそうにこくんとうなずく。
そして、シーツに張り付いていた自分の腕を再び三蔵の背に回す。
 あったかい、感覚。
 大好きな、三蔵の・・
「悟空・・」 
 三蔵の右手の動きが激しさを増す。
 耐えられる、限界まで、悟空は我慢させられる。
「もお・・無理だよ…」
「まだだ。」
 達せられないように、三蔵はぎゅっと悟空を握りしめる。
「ん・・、やだ・・お願いだから・・」
 普段以上に何でもします、状態の悟空に三蔵は意地悪い笑みを浮かべる。
「なら、オレ以外のヤツとキスはしない、そう約束できるか?」
 こくんこくんっと悟空は頷く。
 再び三蔵は口づけ、悟空のモノをきつくなで上げる。
「ふあっ!・・ああ!ん!…さんぞ・・」
きゅうっと、悟空の腕に力が入り、びくんっと、体が軽く震えた後、三蔵の手に欲望が吐き出された・・。

「やだあ・・、もうもう、さんぞー・・」
 足を抱えられ、かなり恥ずかしいスタイルを要求される。
「暴れるんじゃねーよ」
「だって・・」
「いいか、お前はオレのことがキライなのか?」
 突然の言葉に悟空はびっくりして、抵抗もやめてしまう。
そして、慌ててぶんぶん首を振ると、三蔵の胸に頬をすりよせる。
「そんなことない!オレ、さんぞーのこと、一番好き!」
「なら、怖がるな」
 低い声で、悟空に言い聞かせる。
 コレは好きな人と、だけ、許される行為。

「好きな人とだけ?」
「ああ」
「…いいよ。分かった・・」
 涙は溢れていたけれど、なんだか嬉しくて、悟空は初めてにっこりと、笑うことができた。
 
「悟空、もう少し足を広げろ」
「ん・・」
 びくんっと、あらわになる悟空の秘部。
 くちゅっと、内部での音が聞こえる。
 指を差し入れられ、徐々に数を増やす。
「あ・・あ!」
 増やすたびに強烈な痛みが悟空を襲う。
「痛い・・よう…んん…」
「悟空、コッチに集中していろ」
 初めて、人に、三蔵に見られてそして触れられた、そこ。
初めての刺激は、激しくて、何がなんだか分からなくなる。
 限界まで足を広げさせられ、そして、すべての指が抜かれる。
「さんぞー・・もぉ・・いいから・・」
「いいんだな?」
三蔵の最終確認に何度も頷いて答える。
 悟空はきゅっと目を閉じて、三蔵の首筋に腕を回してしがみつく。
 三蔵は悟空の首筋にキスを施すと、そのまま一気に自分のモノで悟空を貫く。
「あ!!さんぞー!!…あっ!」
 ひくっっと息が詰まるほどの痛みが悟空を襲う。
痛みと衝撃は、悟空の予想をはるかに超えていて、それでも、三蔵に必死でしがみついて、耐えた。
「悟空・・」
「さんぞ…」
 自分の中に、感じられる、大きな三蔵のモノ。
 せりあがってくる快楽の渦は、初めての体験の悟空には大きすぎて、飲み込まれそうになる。
 でも、自分を呼ぶ三蔵の声に、必死で意識を縋り付かせる。
「痛!あ、あ・・!!」
 ひときわ大きな、挿入と痛み。
 悟空の細い腰が、三蔵の動きにあわせて揺り動く。
 結合部分から、悟空の大腿を赤い筋が、一筋、流れて、シーツを染める。
「あ、・・さんぞ・・」
 悟空の目の前をフラッシュバックする、情景。
 ずっと一人きりだった、500年間。
 大好きな色。大嫌いな色。
金色が染まって、赤になって・・。
罪と罰だけが、残った。

 快楽が襲う。思考の中断。
 三蔵の動きが早くなっていって、もう、ただただ、しがみついてるしかなくて・・。
それでも、感じられること。
 「さんぞー、好き・・」
離れないで。
「悟空・・」
耳元で、囁かれる言葉。
「さんぞ…あっ・・あっ!」
 ゆっくり微笑んで、さいごの高みに二人でのぼる。
 三蔵の腕は最後まで自分のことを抱きしめてくれてる、そう感じながら、悟空はすうっと意識が遠くなった。
  
 **  **  **  **

太陽みたいな、金色の髪。
包まれてると、幸せで、あったかかった。ぬくもり。
でも、太陽はいつか沈んで、金色は消えてしまう・・。
燃えるような、赤。
それはそれで、キレイだけど・・。
でも、怖かった。何かを、失う記憶が呼び起こされそうで。
 
赤。
血。
罪と罰。
喪失、死。
今は、三蔵がいるのに?
八戒も、悟浄もいるのに。

だけど。
 『いつも側にいる』
そう、囁いてくれた三蔵。
力強い紫の瞳。

 信じてもいいのかな?
 信じられる、強さ。
「好き」って気持ち。
        
コトの後の、静寂。冷気はすでに部屋にはなく、たゆたう煙草の煙が拡散する。 
「つまらんことで、悩んでんじゃねーよ」
疲れて眠ってしまった悟空の髪を三蔵は優しく撫でる。
小さな躰で、大きな罪を背負ってしまった悟空。
カコに何があったのかなんて知らない。
そんなことは、今、必要ない。
三蔵にとって、必要な事実はたった一つ。
「コイツは、オレが拾ったモノだ」
 だから、オレのものだ。
悟空の細い首筋に、両手をあてる。
 ふっと、唇をあげて笑う。
「そういうふうに、しつけたしな」
 ほんの少し指に力を入れるだけで、きっと簡単に、オレになら殺せるだろう。
 だから、「心配、いらない」んだ。
 逆説的な、イミ。

「んんん…さんぞ・・」
 ころんっと寝返りを打つ悟空の瞳が、微かに開く。
 太陽の宿る瞳。
 肩の上までかけられた布団の中から、悟空の小さな手が三蔵の服の裾を、頼りなく握りしめる。
「どうした?」
 三蔵の声は、いつになく優しい響きで、ココロに浸透する。
 かすれた声で、精一杯の気持ちを、カレに伝える。
『好き』だから、「離れないで」
 その願いに、三蔵は悟空の手を握りしめることで、答えた。
 
 窓の上から、雫の滴り落ちる音。
 日が高くなり、雪解けの水。
 悟空の処女雪は、三蔵が、手に入れた。
(それでも…)
「ツライコトには、変わりないが、な」
 再びすべてを自分に委ねて眠ってしまった、幼い恋人に一人ごちた。

    ** ** ** **

「悟空、僕にもそれ分けてもらえます?」
「ん!八戒!!」
 三蔵の前で、ディープなキスが繰り広げられる・・。
 わなわなと震える三蔵に、にっこり笑って、八戒は笑う。
「三蔵、コレは、口移し、ですから」
キスじゃありませんよ。

笑顔で牽制。
あ然としている三蔵に、悟空を連れていきながら、一言言って去る。
「僕は、一応この子の保父さんですから。僕に無断で、変なこと教えないで下さいね」
 にっこりと、トドメ。
 それから、悟空に向き直って、優しいお兄さんの表情に戻す。
「そうそう。悟空、処女雪、のイミ教えてあげる約束でしたね」
 ぎくっと、三蔵は八戒を睨め付けた。
 まさか、コイツ…と恐ろしく、それ以上に腹の立つ事実にぶつかり怒りがふつふつと煮えくり返る。
「え、教えてくれるの?」
「ええ、でも、教えるのには、悟空のカラダで、レッスンしなきゃだめなんです」
その言葉に首を左右に振りつつ、悟空は少し考える。
でも、よく分からなくて。
「・・なんか分かんないけど、教えてくれんなら、いいよ?」
 その言葉に慌てふためく坊主が一人。
「おい、悟空!」
「さあさあ、悟空。あっちで、保体の授業です!」
 保護者さんは、ここで煙草でも吸ってテクダサイ、と笑顔の威嚇射撃。
「ばいばーい、さんぞーー!」
「ご…悟空……」
 無邪気な小猿のノーテンキな声が、生臭(エロ?)坊主の理性を再び引きちぎる。
「覚悟しろよ?」
 不敵に不気味な笑顔。

 ばーーーん!!!

「どわああああっっっっっっ!!!!」
ちょうどグッドタイミングに帰ってきた(朝帰りらしい)悟浄にすべての弾丸は向けられていたのだった…
「一体、何なんだよ!!」

無機質な弾丸音が、真っ昼間から鳴り響く。
そして悟浄の絶叫と、三蔵の怒鳴り声。
悟空の元気な声と、ちょっとアヤシイ保体の臨時教師八戒の笑い声。

今日も、三蔵一行は平和のようだ…
                          〈end〉           



るりの小説第一弾・・・だというのに、書き下ろしではありません(涙)約一年ほど前にコピー誌で出した「WILD FLOWER」にのっけた小説です。最初からエロですね・・・だめだ・・これ、18禁だよな、完全に・・・。しかも、かなりロリショタ入ってますね・・・このときのアタシには、何か降りていたのかも知れませんね・・最近、私あんまりH書いてないな・・・
ところで、三空だけど、八空(笑)すみません、るりさん八空好きなんですよ(笑)で、悟浄、いつもいつもオチに使われてごめんね・・・(涙)でも、悟浄ってオチに使いやすいんですよね・・・なぜか。いつか、浄空で素敵な小説書いてあげたいです(笑)