第26回全国町並みゼミ−かしはら・今井大会

               かしはら・今井宣言

 第26回を迎えた全国町並みゼミは、わが国を代表する歴史的町並み・奈良県橿原市今井町を中心に、「再び、町並みはみんなのもの」を合言葉に掲げ、全国および世界から約1,000人が集まり、熱心な討議をくりひろげた。今井は、全国町並み保存連盟発祥の地である。「町並みはみんなのもの」は、今井で生まれ第1回町並みゼミで使われたスローガンであった。今井は、平成5(1993)年に重要伝統的建造物群保存地区に選定され、町並みの整備が大きな成果をあげてきた。今回の町並みゼミは、伝建地区制度などのもとでひとまず成果をあげた町並み保存の次をどのように展開していくかがテーマとなるとともに、奈良盆地の各地で新たに開始された町並み運動も積極的にとりあげられた。
 初日には、伊藤鄭爾工学院大学元学長が基調講演を行い、今井の存在を知り昭和30(1955)年にわが国初の歴史的町並み調査を行った経過を証言、今井の町並みへの深い想いを語った。続いて行われた各地からの報告では、厳選された10地区が見事なプレゼンテーションを展開、内容も各地の町並み・まちづくり運動が着実に経験を積み、進化してきたことを裏付けた。
 二日目には、町並みの見学と組み合わせた15の分科会が運営された。御坊・称念寺を会場とした第1分科会「めちゃ古いデー、今井町の歴史とまちづくり」では、困難だった長い今井のまちづくりの取り組みを振り返り、サクセスストーリーの中にも住宅問題などなお解決すべき課題があることが確認された。防災をめぐる第2分科会「自分たちの町は自分たちで守る」は、文字通り住民が自分たちで守れるシステムをつくることの重要性が許し合われた。第3分科会「子供に伝える町並み」では、今井小ほかの写生大会や町並み探検隊の事例が報告され、町並みが子供の原風景になるようあらゆる機会を活用すべきだという結論を得た。第4分科会「町家ぐらしはいかがですか」では、住みたい人と貸したい人をつなぐことの重要性が浮き彫りになった。町並みゼミの定番「観光と町並み」をとりあげた第5分科会では、「観光先進地」の発表に対し今井の固有性がクローズアップされた。
地域の固有性をいかした、それぞれの町並みにふさわしい観光のあり方の追求が課題との結論に至った。第6分科会「安心して老後がおくれるまちづくり」では、歴史的な町並みや住宅が、実は老後の生活に優しい環境であることが参加者から口々に語られた。重要文化財・豊田家を会場とした第7分科会「制度を変えると、町並みが生きかえる」では、準防火地区を巡る議論が白熱するとともに、耐震について伝統的な大工の技を再評価する必要性が訴えられた。第8分科会では、地域の建築士たちが主催する「町家再生デザインコンペ大募集」の最終選考が住民投票を交えて行われ、水と中庭を生かした作品が選ばれた。八木札の辻で行われた第9分科会では、奈良駅などの「近代建築物の保存とまちづくり」が話し合われた。
 今回の町並みゼミでは、奈良盆地の各地で開始された町並み運動をもりあげる分科会も行われた。伝建地区をめざす大宇陀町では、第10分科会「町並み保存のプロセスを語ろう!」が行われた。まちづくりグループが活動する大和高田市で行われた第11分科会「ゆっくり、じっくりまちづくり」では、他のモデルを追いかけるのではない新しい価値観に基づくまちづくりの必要性が確認された。御所市で行われた第12分科会「町家今昔物語」は、多彩なまちづくり活動に取り組もうと設立されたNPO法人の旗揚げシンポジウムとなった。世界遺産をめざす吉野・黒滝村では第13分科会「山並みを生かした地域づくり」が行われ、山並みはみんなのものという価値観がうたわれた。
 町並み問題にとって重要な女性の役割と中心市街地活性化を議論する分科会ももたれた。第14分科会「今井の女性、くらしを大いに語る」では、歴史的町並みでの生活の継承がクローズアップされた。第15分科会「にぎわいが沸き上がる町」では、参加者一同、人口減少が始まると土地本位制が建築本位制へ移行、町並みの時代が再来するという確信を得るに至った。
 重要伝統的建造物群保存地区選定以降、今井の町並みは見違えるほどに整備された。しかし、今回のゼミを通して明らかになったことは、この町並みをさらに維持・発展させ、生活を繰り広げていくのは住民であり、今井のみならず多くの歴史的町並みが、住民が真の意味で主体となる町並み保存の第二期へ入りつつあることである。今回のゼミは、全国町並み保存連盟が特定非営利活動法人となってはじめておこなわれた。そして連盟のみならず多くの団体が組織としての体制を整え、各地で住民主体のまちづくりシステムを構築しつつある実態があきらかになった。
 全国町並みゼミーかしはら・今井大会に集った我々は、真に住民・市民が担う町並み・まちづくりへ向けて新たな地平を切り開いていくことを誓い、右、宣言する。

 平成15(2003)年9月21日

                   第26回全国町並みゼミ−かしはら・今井大会
                                   参加者一同