飛鳥山の地蔵 奈良ホテルの東に荒池の子安の地蔵尊といって、すすほけた石地蔵が小堂の中に安置され ている。 その昔、この小堂の堂守であった老婆が、ある夜ふと日を覚ますと、お堂の中から話し声が 開こえてきて何だか験がしかった。老婆は何事かと思ってお堂の傍で聞き耳をたてていると、 「今夜は忙しいのだ。これからお産の手伝いに行かねばならぬ」という話し声がする。そこで 怖いながらもおそるおそる堂内をのぞいてみると、地蔵尊が白装束をまとって白馬にまたがっ ていたが、やがてどこかへと出掛けて行った。 翌朝老婆が地蔵尊を見ると、前夜の話どおりお産の手伝いに行ったのか、全身汗びっしょり だった。この事は都中の評判となり、地蔵尊は出産の手伝いをしてくれる、と多くの人々が安 産を祈願し、以後子安地蔵尊と呼ばれるようになった。この地蔵尊、出産のときにはいつも仏 体が汗でぬれるということである。 |