蜂屋の金持


 親が死んだとき、一番取沙汰されるのが遺産である。土地、財産、現金等々現在でもそれに
関するもめ事は頭痛の種であるが、昔は昔なりに遺産に関する悩み事は断えなかったようで、
次の様な伝説がある。
 江戸時代、納院町に蜂屋というたいそうな金持ちがいた。ある代の主人は、自分の遺産の
金銀財宝を自分の家の井戸に埋め、その上から砥石を積み重ねて次代に残して死んだ。
後にその曽孫がこれを掘り出してみると、驚いたことに財宝はみんな石になってしまって
いたのであった。
 面白いのは、町の人々はそれ以降、子には財を残さず心を伝えよ、と言い伝えている点で、
古くから門前町として賑わった奈良町の下町気質とも、己れの人生の享楽主義ともとれる。
ただ、財も残し、心も伝えてくれるのが一番有難いような気がする。
 現在納院町にある蜂屋神社はこの伝説に関係するものと伝えられている。


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