鎌槍兵法初心百歌首全


十文字鎌兵法

初心百首歌

文の道をよろひて武をハかふとにし心を別に平生にもて
      文武は車の輪の如しといへり。片輪にては道に達せず。内に文を修め、
    外に武を備へて甲胃を着たるが如く心を別に持つべ
しとなり。萬物都
    て理を窮されば心剛の成就しがたし。少しも疑惑有ときは臆病出べきな
    り。

武士の正しき人の上ならハ教へてもよし鎌の道すし
     身の上の正直律儀なる人柄を見定て当流の習ひを教ゆべしとなり。不直邪
   曲の者には教ゆべからず。

大将ハ心をてらしかけ引の千変万化身をハはけませ
     武藝は単騎の者の勤とのみ思ふべからず。大将はことに伎藝を学び理否を
   会得をせざれば、心明らかならず。萬卒の情にく
らくては進退の下知行れ
   ず。身を修めざれば天下も治らざるが如し。

君のため思ふにつけて朝夕に心にかけよや鎌の兵法
     鎌鎗の教へは天理に随ひ正直を修行の本とする事なれば、忠信の人は手
   事も心理もに帰して会得なり易かるべし。

假にたも初心のものをわらふなよ習はぬ先の我身也へし
     人をあなどり笑ぶ毫釐も有べからず。習はぬ先は我も同じく初心なり。

面をはたゝ何となく程拍子風にしたかふ青柳の糸
     面には遠山の月を望が如しといへり。顔は心の華を顕すものなれば、たゞ
   何となく中正なる心の花を顕はし悦眼第一なるべし。

伏起しかすき打はりからふにも格に背て手間延すな
     手間は我身のたか斗りを以三尺に持拳の伏を起しかすぎ揚打拍圍ひ等にも
   手間少しも廣挾なきを可也とすべしと也。

肩臂をはるのみならす浮沈ミ表に見やるのりたてハあし
     かたひぢより顔かたちに至る迄のりたてば角有て悪し。萬のさま圓形に角
   なきは圓相也。

いやなるは顔振りきミ拳折れ足腰かゞミこはき槍立
     此百曲は天埋の正直にそむけり。天然自然の道にかなへば自から圓相に成
   身のかねの天然を考知るべし。

無器用に百曲あるも人々の稽古によりて鎗になるへし
     孟子性は善なりとのたまへり、たとへ無器用なりとも信実を以て修行し正
   直を本意とせば百曲も次第に直り本然の圓相となるべし。

表をは仕合と思ひ仕合をは表と思ひ常にたしなめ
     元祖覚禅房法印の門人中村市右衛門か歌にも、かつことは表のうちに有
   ものを心つくしに奥ならねそといへり。表の形形は上手同志の仕合
を後世
   の規矩に残をく事なれば表は上手の仕合也。故に仕合表のかたの
如くならぬ
   は初心の下手ゆへなり。能々上手の志を考へ察すべし。

通ひ来てならふ心もあたならハ教有ともむなしかるらん
     日々にかよい来るともあだなる心ならば心上手の教もむなし。たゞ信實
   本として執心堅固の修行こそ専要なるべし。

度毎に情に入つゝなおしをハ備れと思ひて又も忘るな
     一日の学は千金にかへかたしといへり。又たとへ金銭を山に積とも買求
   事なるまじきは一日の学なり。怠るまじきを能々思ふべし。

御る心なき相弟子の中こそハ龍に雲とや人も見るらん
     相手なくては手練のなりかたき道ゆへ相弟子の善を得たるは龍の雲を得
   にひとしと也。

諸流をはとはふそしりそあしと見し難波の浦のよしもとそあれ
     他流の事を容易にそしるべからず。長短の道具又遠近の間相真艸の位調子拍
   子の趣によつて千変萬化に遣ふ事あれば初心にては見極めかたき所
の意味深長
   成物なり。

丸觜もまた働のつまされハよこしま鑓よわれ人のあた
    九觜は仕合の手引なれども形を傅受するまゝにて意味をしらねは仕合の用に
   達がたし。心の位を覚へ序破急の調子拍子を知り遠近の間相を知り
備らねば
   我人のあだごと成べし。

引立る上手の鎗を頼へし紅葉の上の露ハくれない
    我より目上の鎗の租手となれば紅葉の上の露にひとしくくれないにもうつり
   行べしとなり。

折にふれ所によりて長道具せまき場にてハ時の見合
    鎗のみを修行しては狭き場にて用にたちがたかるべしと初心は思ふ物なり。
   惣じて古法は長短の一味とて鎗術の修行を積、其位に至らでは知り
がたし。
   修行して知るべし。

かち気なる鎗のくらミは明やらてふミまよひたる千鳥足哉
    りは惣して勝員に勝気なるは大事□負るなり。いまた跡の来らぬ内往んとす
   るゆへふみまよひたる千鳥足になりて心のくらやみを出がたしは。

乱らかしむすほれ来る鎗ならハ心のまなこ見極ていれ
    敵より散らし乱らかして来るか又はもたれむすほれて来る鎗には心眼を見ひ
   らきて敵の鎗に眼を付べからず。いよ敵のしんぼうを見よ。しんぼうは顔
   と挙なり。

仕合して表の鎗を捨置は根をほしからす植木なるへし
    仕合のみを修行ぞと思ひて教かたの表の道理を極めざれば、百年修行しても
   えきなし。たゞ表の真艸の理をよく會得せよ。真艸の理を窮むれば遠近を見
   分けて遅速の節を知り疑ひはれて心正しくなる也。然るときは表の真艸形は
   勝負の根本なり。其根本をはづれば枯木となるにたとへなり。

鎌ならふ心のあらハ身を直にみかきてきたへ二六時中に
    此道に入修行せんと思ふ人は二六時中に心身の霊をいましむる事第一なり。
   心まつ直からざればかたちも直からず。かたち直からざれば仕方の負出来る
   故争か本道に至らん。

器用にて心のたけき人あらハ見るもすなはち稽古なるへし
    器用とは其器に当りて用ゆべき人也。たけきとは武道に備りたる人なり。
   ケ様の人は見るも稽古なりといへり。求めて近付べし。尤こゝろすなほ成
   はかたち器用なり。かたち器用なれば心もたけきなり。猛の字をたけしと
   よむゆへ猛なるをのみたけしと思ふは誤なり。南方の強は君子の居る所な
   れば工夫すべし。

きれハ太刀なけハ長刀突ハ鎗徳の多きは十文字鎌
    鎌鎗には十字萬字の備へともに有りて心中に求めざる必勝の理あり。然れ
   共かまへの規矩鱗にひづみなし。進退の節に中り時中の位に至らざれば其
   徳なかるべし。

心ろ身にそはて働く十文字勝にはなれてあやのなきもの
    諺に身太刀を切ともいへり、太刀槍に身をそへて一拍子に進退せざれば
   具と五躰と替はなれきれになりて文なし。能々心得べし。

とりかけハをしへのことく遣ひなせ我もなけれハ敵もあるまし
    とりかけとは敵に向ひ初るときを云也。教への如くとは遠間より敵と相機
   にかまへて出ることを云ふなり。初めのかまへは
既に過去なれば空也。未
   来の何も形のなき所が直に現在となれば此所に実は有也。故に過去に事を
   置、心を未来に置べしと
なり。有は過去となり、無は現在となるを能々覚
   悟すべし。

いつとてもすきまあらすなすミ入れ勝て兜の緒をしむるまて
    心をさきに進むるときは身も進む。心すゝまずして所作ばかり進めば、こ
   け込と来て悪し。身をすゝむるより足と心を一拍
子に進めよとなり。又引
   にもすゝむ意味有べし。進むにもこけ込のすゝみとならぬ様を得心すべし。

こらひてもまけぬにしかぬ鎗なからあやうき勝ハ好むへからす
    表裏の事をなさんとて態々ころびて勝なとしいふ事をなす人有り。其ときも
   し敵表裏にのらす時は必定の負となり実理に付
はよし。偽りの事を必頼むべ
   からず。

いきしにの習ありとて輪廻セはいつも心に極楽はなし
    生死はこれ天命なり中有に迷ひて生もやらず死もやらぬ輪廻のきづなにひか
   るべからず。唯一筋に道を守り、道にあつて生死
を決定すべし。身を捨て浮
   む瀬有とても無法にすつるは是天命ならす。勝負の天理を極めざれば天命の
   生死に預ることなる
まじ。能々修行すべし。

うつり気の心の花ハあたなれハいかてなかめに勝の有へき
    色につき色に隋ふべしとの教なれども所作は敵の鎌色に隨ふにても心を動
   かさぬ修行第一也。心の眼は第一の定木なり。心
の花は眼にうつり行てあ
   だなる物なればうつらとながめまじき也。ながめとは詠長雨の心をかね
   たる言葉なり。眼にて
視るは必と頼かたし。心にて觀るを元として修行至
   れは察らかになる也。是を視觀察の習ひと心へべし。

つくと心をこらせおのづから手足身ふりも鎌にまかせて
    自然天然の理を窮是を心の本として心を正直の場におけば、手足身振まで
   鎗と一躰になる也。鎗は無心の物故正直也。鎗と
躰と進退一つになれば心
   に應じて思はずしらず本道にいたりて思ふまゝの勝有べし。

とりかける鎌鎗ハ志よりの強ミなり有無に相手の鑓をもらすな
    鎌は志よりのつよみなりせば、相機相位にて互角の人なれば十文字万字の横
   手のつよみあり。有無とは己発未発の事なり。
有無ともに心を用ひずして上
   鎗下鎗にも懸まるる鎌の徳は廣大なり。故に外にもらさじと云也。

立向ふうちにそれとは見へねとも取そむるより勝ぞ色つく
    勝負は闘はざる以前にも疾その勝敗の色しれぬべしとや。孫子か曰、夫未
   戦而廟算するに多算勝ち、少算は不勝以此觀之勝
負見と云はるが、遠間の
   内より位の應不應により下鎗上鎗見へて取初る鎗に勝負の色は疾し。

まけしとて勝たかるこそ入よけれ動きのかたく見ゆるむつかし
    初心のうちは動く鎗を見てさわぎ立心を散さるれども動く鎗は下手鑓にて動
   き止らざれば突出す事はならず。動ぎ止る所は
止め易し。かへつて動きのか
   たき證鎗は功者の事にて起り見へず実により付にくし。聲も臭もなきに至り
   て止むとは君子の
至りなれば鎗も色なくして進退するは上手の事なり。

突出るセんをはぬりを清をとれやひとしつ敵ハ骨をおるもの
    表の形艸の一本目又礒の浪などゝて突出す頭の□気をさけて盡る所を取事法
   なり

鎌鎗屋直鎗長刀鎰鎗の仕合取掛品々にあり
     相手何の道具を持来るとも何れにいかゝして勝べきと工夫をすれば眼に迷ひ
   心曇りてまくるなり。いか様の道具持たりとも
我鎗を敵と相機にかまへて立
   出片尺に結びて止り三尺の位へぢりとより付き一尺の位へうつると否間に
   髪をいれず敵の
拳元を鎌にてとりて進み
   入るなり。敵の鎗の柄に我身を入込て後位をはづして突勝べし。尤我鎗の鋒
   先きを敵の手元に付れ
ば諸道具とも委皆勝我に有もの也。三尺の位にて突は
   危し、一尺の位にて突かぬも危し。此両様時来らざるになすと時至て
疑ふと
   ともに誤りなればなり。

軍陣の鎗ハ身方の指物也ほろ立物にあたる心得
    此歌はよくきこへて深き意味はあらざれども治世にもよく覚悟せざれば、時
   にあひて思ひの外なるふかくを取ものなれば故
人は承て此所迄も心を付て深
   切成教へなり。常に心を付置べし。

多人数をおし立ならふ鎌鎗や前後左右に気を付てよし
    此哥(歌)も前に同じ。尤勢込のならひとて馬上歩行立の者ともに鎗の納
   め様持様有り兼て心得置べしとや。

楯合や馬上の鎌や船の中習候傅ハ有とこそきけ
    此歌も前に同じく極意の目録に出たり。

さまこしや戸入茂ミに夜鎌心得てよし一手有るもの
    此歌も同前なり常に覚悟すべし。

とり向ふ心のさそなき人ハそれと見るより鎗屋はなるれん
    過急にとり向ふ時は先身のかためを第一とすべし。五敵と相機に構へて仕
   寄も則身の固めなり。又我得手の道具を常に身に
そへ置て遠き所に隔てお
   くべからず。非常は有常なり。

裏ははり前は巻かけそれに上中下をは見てそいる
    裏ははりとはまづ敵の鎗を左に見るときは鎌を以て尻手を高く揚て拍り上
   るなり。前は巻かけとは敵の鎗を右に見るときは
巻かけ或はかぶり上又は
   切落して入るとや。皆々表形に教へおかれて常に修行する事なれば仕合を
   すればつく出べき事な
り。然れども初心の仕合は形の手一つも出ぬもの也。
   其所は全心中の動轉有故なり。能々考へ仕合も教形の如く成を本意と
すべ
   し。

鎗さはき眼なれともひへかけてたゝかふ鎌ハおくれかち也
    鎌の理を以て槍さばきするは当流の利運にて第一の目なれども鎌にてかけ
   なんおさへなんと鎌の働らき色々のわざをなし敵
の鎗を逐ひまはるはかへ
   つておくれかちなり。唯一すじにしんぼうを目がけて敵の拳をはづすまじ
   と心にかくべし。

いつとなく工夫鍛練有人は無念無相の勝を知るらん
    行住座臥に王夫鍛練有ればいつもなく上達して思ふともなく思はぬともなく
   心のまゝに事出来て無念無相のかちをしるらん
と也。是則聲もなく臭もなき
   に至れる所なり。

とりさわき是非に先へとせぐ人ハ手前崩てあき身多けれ
    初心は先こく先々を勝ものみ思へども左はなき事なり。後の先にも有り。
   後々の先にも有。むざと未発をうたず巳発になし
て討は中正の術なれば上
   手哥を起して正を誘き三の止に勝なり。三の止は是必勝なり。とりさわぎ
   て無用の手足を延動かし
身のまへ三ケの位を崩す事は第一の誤り負の基ひ
   なり能々愼べし。

静なる心の水に澄鎗ハ敵もくたきて泡と成らん
    浪の立水には月影不澄西泉の湛へ水にこそ月はすみぬれ。又すむ水には消
   へてあだなる敵は泡ときへぬらんと也。たゞ瑜
伽の法水を湛て三密の心月
   をすますべしとなり。

あふきてもあふきたらぬハたゝ見込せつさ琢磨も胸の内哉
    眼に随ふて心うごけば見込こそ大切のものなれ。あふぎとふとむべきは見
   込の大事なりといへり。切瑳琢磨するも心の修行
を第一として所作は第二
   也。帝口身込の秘事を忘るべからず。

さりとてハ鎗に心を入れなから身をおしむゆへ未練なる人
    敵に向ふときは生死の二つを出離をされはならず。我身を敵の鑓の鋒に当
   てのりこみ我鑓の鎌さきにては敵の鑓の元をせい
すべし。然るときはかへ
   つて死を出生に帰る也。身を惜みてにげのけば逃退ところにて突あてらる
   ゝ物なり。是を未練と云
也。

たえすしも是そと思う理相をハ吟味をなして鎗を遣へよ
    武術は事の修行第一なりとて理を吟味せぬ不覚者世に多し、夫天地の間に
   物として理のなきといふことは決してなし。愚味
にして理のひらけざるを
   理外の理といふ。なんぞ理外二理の有べき。たゝ理におゐて未窮を理外の
   理と覚へたるに覚は論ず
るにたらず。

心には飛立程に思ふとも事おもとせはいかて勝らん
    心には飛立ほどに思ふとも理をも窮めず事をのみおもひと心得たらば疑有
   つて敵に近付難し。それは負ざる理の不決故な
り。不負に窮るときは則必
   勝の時至る是仕合第一の心得なり。古法の傅を以て教形を熟し習ふへし。
   所作より理を窮るを第
一とすべしとの意なり。

心さしつよみ過ても肝要ハ手つまのきかぬ鎗ハ負へし
    所作なく理斗りにても亦行ぬもの教訓なり理事は一躰なり。心ざし斗つよ
   み候とても所作の練磨を盡さざれば事の誤り多か
るべし。

鎗筋のすくなるものを持なからよこしまかまへ罪ハのかれし
    鎗は突の理有物也。然るを柄にてこじまはすは皆心のまよひなり。敵の鎗
   の鋒より入ればいらるゝなり。全く勝べしと思ひ
て我身の進退には心付す
   敵の道見にのみ心を付る其貪欲心より負となる能々愼べし。


年月をかさねて鎗の功をつみむかしの人の勝道をしれ
    年月を重ね深長の理を窮むれば故人の誠実弥増に尊く成て文武一躰の事日
   々に信仰深く成べし。

所作にとひ心に答ひとり行道を知らすハ妙ハあるまじ
    師傳を元より大切に覚へ自己にも昼夜工夫をなして獨り行道をしれよ。自
   得せざれは妙はあるましとや。天上天下唯我獨尊
と云事有べし。

うこく鎗たれ成らんと間ひ行ハ心の外に答てもなし
    動く鎗はたが動すぞ屋元から鑓は死物なり。敵の心より外に動かすものな
   し。然は敵の心をとめよとなり。

十といふもとにかへりて見る時は勝ハ心の一ツ成けり
    一二三四五六七八九十と算へて行は後一に帰るたり。一圓相と成れば一も
   十も同じ。皆心一つの外に出べからず。事理一躰
なるは心の修行専一な
   り。烏に三足のたとへ有り。

間つもりのあひたに顔を見てとれや先にかぬけれハ後にも負るそ
    遠間のうちに間をつもり次には敵の顔を見るべし。顔は心の花なれば進退
   遅速ともに顔に顕れ備るなり。是見越しの目付
也。

いろに散しみすともおとろくなたゝ突鎗は一本そかし
    色々に散し見するは表裏とて無用の事なり。拳を見ればいつも一つなり。
   槍先のみ上下左右に変化しても見ゆる也。本を見
止てまよふましきなり。

下手はたゝ相手に心うくれてそつとそつと突くる鎗におとろく
    ケ様の初心を導為に飛潜といふ教形あり心得べし。

極意とておしむは道のかたそよいへと答へぬ以心傅心
    秘事は睫といへり。極意とても下思儀はなき事なり。夫を秘密としておし
   むは道知る人の手前はづかしき事なり。又傅へて
も受くべき器量の人なき
   こそかなしけれ。

迷ひ有鎗ハはつかし我なから日頃の習ひ敵にとられて
    数十年の稽古修行も心に疑惑の迷ひあれば敵に合て習ひ一つも出がたし事
   は年功にて成り一心は覚悟にて即時にも就る。

立さはく胸の浪風やミぬれハ心にすめる有明の月
    数十年の稽古修行も雲はれて後の光と思ふなよもとより空に有明の月とも
   いへり。能々考ふべし。

色々に敵のかまヘハかはるとも突来る時の鎗ハ一すし
    四方四隅さまに鎗をかまへ来るとも突ときは一筋なり。中央ならでは鎗
   すじ外に有事なし。迷ふまじきなり。

一生の命の楯の兵法そ大事と思へあたに思ふな
    不得天命而死するはふ心掛なる故なり。理に当る所まで事を修行して其上
   にて死すれば刄上に死するともこれ天命なり。事
の修行は理を窮めて後な
   らでは出来ぬと覚悟すべし。

一足も身を逃退ハ突るへしすゝまハかする中に成らん
    身を引て左はへのけばかへつて突に中る。また鎗先に中る様にす々み魚鱗
   の構へ正しければかへつて遁るゝなり。然れとも
艸の位の間相にては易に
   居て命を俟の心を持真の位にて義を見てせざるは勇なしと心得て進むべし。

左足をハ引ハ素鎗ハとりましすかさすかけてかすき入へし
    艸の位の一本目に此形を教へたり。身を引うちに進む意有り是陰中の陽な
   り。

入身にハ左の足を大足にすゝむとすれハ入よかるへし
    入ときは右の足を大足に踰せは容真身になりてかたちあしへ右足を少しこ
   やし左の足を大胯に進むべしとなり。

名を惜ミ命を捨ん何某か武芸すかぬハ愚成けり
    名を惜み忠孝に備んとする命をあだに捨ること不覚也。武術の奥義を悟り
   天命にて死すべき也。

鎌鎗を望ミ誓約するならハまつハ法度の道を正せよ
    当流懇望の人あらば宮初に法度を言きかせ仁義の道を第一に教示せよ。無
   左而は奥旨に至りかたく本道修行の妨となる。

表をは手足からしの見物そと思ひて鎗を習ひはしすな
    表の形は手足からし又見物戯の様に遣ふべがらすとなり。重年も云如く
   必勝は当流の表形の内に有と知るべし。

表にて身へのかねひすミ程拍子手つき足ふミかこひ習へよ
    静なる事の中にて三ケ身位止動遠近真艸△△遅速浅深軽重長短大小等を能
   々習ひ覚へよとなり。

表より外に習らひハなきものそ假初ことに遣ひはしすな
    表より外に仕方は決而無く物と決定して遣よと也。仕合とて外に仕方は天
   下に無之物とかへすも覚悟すべし。

老ぬれハせんなきものそ若き身の心にかけよ兵法の道
    老て学んとすれは進退不自由になりてなりがたき事多く、学文武術ともに
   眼力うとくなりては書も見へがたく事もなしがた
し後悔忽に来る。

世は廣しいかなる上手有やせん自慢ハ怪我の基と知るへし
    世はひろきものなり。いかなる上手名人も有べし。然れども奇妙奇躰成事
   はなくたゞ正直潔白に至り極る人をは名人なりと
知るべし。

長道具其品々にかはりあり心を付て工夫よくせよ
    直鎗鎰十文宇長刀又は弓鉄炮等へ遠間を用とする器品々有といへども突拍
   子打拍子は一拍子なり。空より落る雷も燧箱の中
の石火も一拍子也。是に
   て迷ふ間敷なり。

上手とて自慢ハいかてなるへきそ時の運命知らぬ行未へ
    上手名人の上にも天理地理人理とて時の運命あれは必勝といふ事はなし。必
   不負は修行の至極とする所也。是則術の至極
也。孔子ももちゐられたまはさ
   る時有是天命也。然れ共五百歳を過て文宣王と祭られたまひ萬代不易の教へ
   を遺したまふは
則必勝なり。

義理つよく深く執心あるならハ極意残さす教へ傅へよ
    義理つよく執心ふかく篤実なる人ならば極意を残さす教へ傅へよと也。おし
   みて大切の事をする程の道を我ひとり知りて後
世へ遺さざるは不忠なり。

習ひをハつゝしミもなく云ちらし詞つまらハ恥をかくへし
    古傅は則聖賢の教へなればかくす事は有べからず。然れども不直の者にむさ
   と教れば後悔することおほく又しらざる知りた
るごとくにいひなして言葉つ
   まらばいかつせん能々理を窮て教ゆべし慎むべし。

事よりも心にうつす鎌鎗ハ年を積とも勝ハ有まし
    武藝は事の術也と覚へり。無埋なる事を必にうつし傅ふる人は百とせを經る
   とも勝の道を知ることなしとや。

心より事につたふる鎌鑓ハはやくも道に叶ふものなれ
    心をこらし晝夜理非の工夫をなして天理を以て事に傳へて習ひ得る鎌鑓ハは
   やく本道に至るべしとや

奥儀まて習ひうるとも油断セハ是そおくれのもとゝ知るへし
    奥儀の至極を習ひ得るといへども油断をなして捨置は我物とはならでかへ
   つておくれのもとゝなるべし。

敵の所作其ッさの品により位を取りて油断はしすな
    敵の所作道具其ッさの品によりて最初に遠間より真艸の位をとりてむざ
   と掛るべからず。現在より未来を次第に見越し
覚悟する事肝要なり。

つよくとも又弱くとも敵ならハ手前みたさす真にかくれよ
    つよきを恐れず弱きを侮らず、平生御前御前平生の心得にて行儀を常にみた
   るべからず君子は其獨を慎といへり。

鎌鑓の横手を頼遺ひなはかけはつしての後にくゆへし
    當流の鎌は埋方を第一とおく器なれども横手にてかけんおさへん突揚んとす
   るは則住地煩悩なり。もしかけはづして後大に
悔べしとなり。

横手をはいらさるとして柄にかちのありてつかヘハ後に悔まん
    當流の鎌は理方を第一とをく器なれども横手にてかけんおさへん突揚んとす
   るは則住地煩悩なり。もしかけはづして後
大に悔べしとなり。

横手をはいらさるとして柄にかちのありとつかヘハ後に悔まん
    前歌の心をとりそこない横手をはいらざる物とせば、是も亦当流の理方を知
   らざるなり。柄にかち有事は決してなし。穂さ
き働らけば柄もことく働き
   法に叶ひて鎌の利は則必勝なり。

鎌も柄も其能あるそ習ひなハ敵のしはざに乗て勝へし
    横手も柄も皆時に應じて能有を知り得たらは敵のしはさに乗じて毎く勝有
   へしとなり。

突ハからふほと鎗の地獄なれたゝ踏入よ先ハ極楽
    敵の突出す鎗をとめんと圍ふ内は三尺の間相といふものにて進退の塗極りな
   く互角なれは地ごくなり。一尺の間相へ近付て
は踏込さへすれば、敵のやり
   尖をのがれ柄越になりて極楽に至る。

鎌鎗の極意に心いたりなハ其後道具を取に及はす
    當流鎌鎗の極意を得心せば何の道具を持ても必勝有べしとや。初心は鎌な
   きときはいがと思ふべし。此鎌の極意をしれば、
おりにふれて無刀素はだ
   の時も心中の鎌を遣ふ事なり。

死後ならて上手も下手も知られまし命のうちにいかてさためん
    此道にかぎらず万藝ともに一生学びつくす事は有べからず。下手も上手も
   怠れば下手と成故没後ならでは上手下手は極るま
じとなり。

我すきし道具に習ひ極なは流にハよらし上手なる人
    我すきし道具にて物の至極を覚り得よとなり。何流とよぶは初のうちにた
   れの流れをくむといふしるしなり。尤源清き流れ
をくめば未きよく、濁れ
   る末をくめば益濁る。能源を吟味してくむ事肝要なり。

習ひをは深くつゝしむ心よりまさる極意ハあらしと思ふ
    古法の習ひは故人の明暮をもつて困苦艱難の修行して後教へ遺さじ。正直の
   道なり。能々つゝしみ学べば極意外にあらじと
なり。

仕合をは圍ひ打拍り遣はつし眼にとらはれ心ミたすな
    仕合には形を遣ふ心と事替り、かこひうちはりかけはやし等をなして、全く
   かたんと思ひ敵の鑓に心を散らされ眼の迷ひ出
る。是を見搦といふて戒る
   事なり慎べし。我心を正直に持ち法のかたちを乱さず、時に應じて進退す
   れは火に入ても燒ず、
水に入ても溺れまじき心なるべし。

出るより光りハ四方のあまねしな心に照らす山の端の月
    真如の月の光は出るよりあまねくてらすなり。疑惑の雲のからぬ様に心得
   て七情にひかるべからず。本来の無一物を悟れ
ば、聲も臭もなし至れる哉。

我鎗をよしと斗に思ひなし他人のまさる時にくやむな
    何事も此趣にてよしと思ふべからず。きのふよしと思ひし事も今日思へば
   非なり。覚今は是而昨非と故人もいへり。

鎌鎗のかこひかまヘハともあれや勝ハ心の見付なりけり
    鎌鎗のかこひかまへは勿論法に叶ひたる上にても心の見付成就せざれば無
   用の事と成事有事理成就の上に又心を一段みがく
べしとや。

よはくとも必敵をあなとるなおくれハ後にかへらさりけり
    前にも有ごとく弱敵をあなどリて後悔をすべしとかさねも慎の心を教
   へしなり。

遣ひ得て極意を高く窮むとも自慢ハ負のもとゝ知るへし
    事埋の極意を窮つくすとも心おごること有べからず。鎌退辞譲は則必勝
   の道なり。

船軍馬上の鎌の習ひをは世をうミ渡る海士人にとへ
    船軍馬上の鎌のならひも有たゝ一天。受とも又一天。
   
四梅を渡る其道々の達人にとひ尋て心を深くし油断すべからずとなり。
   孔子曰吾不如老農吾不加老圃と。

伊勢の海千丈の底の一ッ石袖もぬらさすとるよしも哉
    是は悟れよとの歌也。時の至るを待事也。時至らざればいか様に工夫して
   も袖ぬるゝなり。時至りて汐の干る節には千ひろ
の底の一つ石も手元にう
   ひ来るが如し。高き山もふもとのちりひちよりなりて自雲かゝるまでおひ
   のぽるといふも同儀な
り。

鳴子をハおのか羽風に引立ておとろきさわく村すゞめ哉
    善悪邪正も皆我に有負るは其身の正しからざる故なり。正直潔白なるもの
   ゝ負る理は決してなし。七情にひかれて心かたむ
き事の偏倚たる事有れば
   邪気の入事迷なり。克巳復禮の儀肝要なり。


百首歌の巻  

2003.02.15