『TV局の映画戦略』多様化
2008年3月13日 東京新聞朝刊

 民放各局が今年の邦画のラインアップを相次いで発表した。テレビ局が製作委員会に出資し、人気ドラマを映画化するパターンは今やすっかり定着した感がある。最近はそれだけにとどまらず、大作を並べてキャンペーンを展開したり、動物を描いた作品で局のイメージアップを図ったりと、テレビ局の映画制作や宣伝も多様化しつつある。各局の映画ビジネスの動向を探ってみた。 (小田克也)

■相乗効果
 「2008 日テレスーパーアニメサマー」。日本テレビは、アニメ界の巨匠、宮崎駿監督と押井守監督の最新作が相次いで公開される今夏を、こう位置付ける。

 宮崎監督の最新作は「崖の上のポニョ」(7月公開予定)。同監督の作品としては二〇〇四年の「ハウルの動く城」以来となる。「ハウル〜」は興行収入二百億円(日本映画製作者連盟調べ)をたたき出しており、日テレや配給の東宝が「崖の上〜」に期待しているのは言うまでもない。

 さらに八月二日には、海外で高い評価を受け、若者にも人気の押井監督の「スカイ・クロラ」が公開予定。日テレは夏休みの「連続」公開による相乗効果に期待を寄せており、キャンペーンにも力を入れている。

■独自路線
 テレビ東京は今年も、「ポケットモンスター」

ダイヤモンド・パール ギラティナと氷空の花束シェイミ」(7月19日公開)などアニメ映画が柱だが、三月十五日からは「犬と私の10の約束」が公開される。

 主演は田中麗奈。十四歳の少女の成長していく姿をゴールデンレトリバーが見守る物語だ。盲導犬の生涯を描いた「クイール」(04年)や「子ぎつねヘレン」(06年)に続く、松竹との動物シリーズ第三弾。

 テレ東は、フジテレビのような映画化できる強力なドラマを持っていないのが現状。その中で動物を描いた作品を自社の看板シリーズにしたいようだ。

 井上博常務は、「今後も犬に限らず動物ものは企画したい」と意欲を見せている。

■“資産”活用
 他局の注目を集めるフジテレビは、福山雅治主演の人気ドラマ「ガリレオ」を映画化した「容疑者Xの献身」を今秋公開する。人気ドラマを映画化する“お家芸”は今年も健在だ。

 また三谷幸喜脚本・監督の最新作「ザ・マジックアワー」(6月7日公開)も目玉。同監督の「THE 有頂天ホテル」(06年)は興行収入六十億円を突破。「三谷・フジ」路線は今後も続きそうだ。

 フジに続けとばかり、テレビ朝日も人気ドラマを映画化。「相棒」(5月1日公開)や「特命係長 只野仁」(12月公開)を予定している。ある在京キー局の関係者は、「刑事ものの『相棒』を映画化するあたり、フジの『踊る大捜査線』を意識しているのでは」と指摘する。

 TBSも山下智久が初主演した人気ドラマ「クロサギ」を映画化(3月8日公開)。井上弘社長は先月の定例会見で、映画制作への出資について、「放送と連動して考えている」と述べており、人気ドラマ→映画という基本路線は堅持する構えだ。

 ただ、その一方で、テレビドラマ草創期の傑作で映画にもなった「私は貝になりたい」を半世紀ぶりに中居正広主演でリメーク(11月22日公開)。一昨年夏には小松左京の一九七三年のベストセラー小説で映画化された「日本沈没」を再び映画化。興行収入五十億円を超える大ヒットとなっており、過去の名作に光を当てる試みは今後も続きそうだ。

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 各局は今年も積極的に制作・出資する予定で、このほかコミックがヒットしドラマ化もされた「砂時計」(4月26日公開、TBS)、一九五八年に黒沢明監督が映画化し、「スター・ウォーズ」のアイデアのもとになったといわれる「隠し砦の三悪人」(5月10日公開、日テレ)、小津安二郎や溝口健二ら昭和の名監督と同時期に活躍した清水宏監督の名作をカバーした「山のあなた〜徳市の恋〜」(5月24日公開、フジ)といった作品が話題を集めている。