同じ脚本 2度おいしい? そのまんまリメーク映画
2007年12月01日12時19分 asahi.com
黒澤明監督の「椿三十郎」のリメーク版(森田芳光監督)が1日に公開される。過去の映画に、さまざまアイデアを加味して撮り直すリメーク作品は近年ますます多いが、この「椿三十郎」、脚本が黒澤版と同じなのだ。そういえば、脚本が同じだったり、同じ監督が同じ作品を撮ったりする「そのまんまリメーク」、このところけっこう目につくではないか。
映画の歴史はリメークの歴史と言ってもいい。洋画邦画を問わず、過去の作品の数々が作り直されてきた。そんな中、黒澤作品は、日本映画でのリメークがほとんどなかった――「七人の侍」が米国映画の「荒野の七人」になった例などはあるが――。
藩の不正を暴くために立ち上がった9人の若侍を無頼の浪人・椿三十郎が助ける痛快時代劇。椿の役は黒澤版では三船敏郎、今回は織田裕二が演じる。
脚本は45年前と同じく、黒澤と菊島隆三、小国英雄の3人が共同執筆したもの。ゆえに、話の運びとセリフはほとんど同じ。森田監督は「(黒澤作品は)キャラクターにセリフ、内容すべてが素晴らしく、脚本を変える必要を感じなかった」。それでもリメークを試みる意味を「古典落語やクラシック音楽の名作と同じで、演者や指揮者が異なれば、違うものが味わえるはず。新作で見る若い人に、黒澤作品を知ってもらう機会にもなる」と話す。
脚本は同じでも長さは黒澤版の約100分から20分延びた。「そこが演出の面白さ。同じ脚本も監督が違うと、こうも異なるということが伝わるといい。延びたのは、セリフの間(ま)を大切にしたり、殺陣をじっくり見せたりした結果」と森田監督。内容が同じなら役者がカギとなる。前作の威圧的なリーダー像を、今作は協調型にした、という。
織田も「森田監督から『4番打者でなく1番打者の椿を演じてほしい』と言われた」と述べていた。
リメークに際して、元の作品と同じ脚本を使う映画が、もう1本、来年公開される。清水宏監督の「按摩(あんま)と女」(38年)を、「鮫肌男と桃尻女」や「茶の味」の石井克人監督が「山のあなた―徳市の恋」と改題してリメーク。
山の温泉場を舞台に、あんまの男と、東京から来た美女との淡い恋を描く。主演はSMAPの草なぎ剛。石井監督が元の作品にほれこみ、脚本は見つからないので、ビデオを見ながら書き起こしたそうだ。「リメークというより『カバー』とか『修復』みたいなもの。普通に着物を着こなしている戦前の世界を、現代のカラーの技術と高音質で再現したら、ファンタジックな感じになった」と話す。
■難しい本家超え 興行は苦戦
黒澤・三船コンビの「椿三十郎」と、70年前の知る人ぞ知る佳作「按摩と女」のリメーク。はたして観客はどう受け止めるだろう。
今年は大林宣彦監督が自身の代表作をリメークした「転校生」も公開された。男女が入れ替わる設定は同じだが、舞台を広島から長野に変え、テーマは「思春期の性」に「死」も加えた。
昨年末公開の「犬神家の一族」は市川崑監督が30年前の自作をリメーク。これこそ「そのまんま」で、当時とほぼ同じ脚本、同じシーンを多用、俳優も金田一耕助役の石坂浩二や、重要な脇役の加藤武、大滝秀治らが再び集まった。
ただ2本の興行は苦戦。「転校生」が約3500万円、「犬神家」は大規模公開する正月映画としては伸び悩んだ約9億5000万円。さて今回の新作たちは?
「そのまんまリメーク」には、映画の関係者たちの間に「同じ状況で撮るのではなく、苦しんでこそ、珠玉の美は生まれる」「元の作品の主役に比肩するスターが育っていれば意味があるのだが」と、厳しい意見も少なくないのだが。
■海外から注目
「Shall we ダンス?」や「南極物語」など、近年は邦画から洋画へのリメークも多い。
米国でリメークされた「リング」などを手がけ、現地に拠点を持つ一瀬隆重プロデューサーによると、ハリウッドの日本映画への視線は年々熱くなっているという。「リメークの権利を買いたいという話は山ほどあり、資金を出すからまず日本で製作・公開し、成否を見極めてから、そのリメークを米国でやりたい、という申し出まである」
■権利販売に力
日本の大手映画会社では松竹が、「リメーク権」の販売を「将来性豊か」と位置づけて力を入れており、既に、山田洋次監督「幸福の黄色いハンカチ」のほか、「SHINOBI」など3本の契約がまとまった。同社海外ライセンス室の石田聡子さんは「過去の作品に光があたり、世代や国境、文化を超えて伝わる。日本映画の発展に意味のあることでは」と話す。