「日本アニメの実写映画化」にハリウッドが興味を示す理由
「実写版ドラゴンボール」「実写版AKIRA」……。話題だけが先行していっこうにリリースされない作品もあるが、ハリウッド側の日本アニメへの関心は依然として高く、あの名作も候補に上っているという。ハリウッドの現場を探った。
2007年03月14日 14時23分 新崎幸夫,ITmedia News

 日本のコンテンツ産業の中でも、世界的に強いとされるのがマンガとアニメ。中でもストーリー性の高いもの、ネームバリューの大きいものは、ハリウッドが実写版映画を製作しようと狙っている。

 映画化の話題だけが先行し、いまだ日の目を見ないでいるアニメ・マンガも多い。しかし最近では、「第2次の日本マンガ映画化ブームが到来しつつある」と見る映画関係者もいる。ハリウッドの現場を探った。

■いつ実現するのか「実写版ドラゴンボール」「実写版AKIRA」

 ジャパニーズ・アニメやマンガを実写映画にしようという動きは、確かにある。例えば米New Line Cinemaは2005年に、日本のマンガ「MONSTER」の実写版映画を製作すると発表した(英文リリース)。同マンガは浦沢直樹氏原作で、小学館の「ビッグコミックオリジナル」誌上で連載されたもの。欧州などを舞台にした本格的サスペンス作品が映画化されるとあって、日本のマンガファンにとってはうれしいニュースだった。

 水面下ではほかにも、数多くの作品の映画化が模索されている。公式に発表されたトピックとしては2002年頃に、鳥山明氏原作の日本を代表するマンガ「ドラゴンボール」と、ジャパニメーションの名作として一部で熱狂的なファンを持つ「AKIRA」が、それぞれ実写版映画化されるとして話題になった。前者は米20th Century Foxが、後者は米Warner Brothersがそれぞれ映画化の権利を獲得している。

 しかしながら、これらの作品はいずれもいまだに映画化されていない。消息筋によれば、「権利関係者の意見調整にてまどった」とも「満足いく映像が作れずにいる」とも言われている。詳細な理由は不明だが、何らかの理由で想定したほど順調には劇場公開に結び付けられなかったとみていいだろう。

 そもそも映画業界には“面白そうなものは先物買いする”という文化がある。たったひとつのキラーコンテンツが会社を大いに潤す可能性があるため、「ヒットの種」を幅広く探そうという発想だが、裏を返せば芽が出ずにいる種が複数ある……という状況ともいえる。

 ともあれ、2002年頃のこうした動きがいまひとつ大ヒットに結びつかなかったことから、傍目にはこの機運がしぼんだのでははないかという印象もうける。だが実際には、現在でも継続して「マンガのハリウッド持ち込み」を狙う人間は存在するようだ。

■マンガを英語に翻訳して「映画化を検討」

 ロサンゼルスの南カリフォルニア大学ビジネススクールに通う柳澤大輔さんは、2006年から2007年にかけて日本のマンガの海外売り込みを複数手伝った。作品は例えば、槍を手にした長髪の少年が妖怪退治をする、という内容だったりしたようだ。

 「過去に仕事をしたアニメ好きのインデペンデント・プロデューサーから『案件をアメリカに持ち込むため、登場人物のセリフを英訳してくれ』といわれた」。作品によっては、それこそフキダシの1つ1つを英訳したという。

 こうしたニーズは、一定数存在するようだと柳澤さんは感じた。「アメリカには、アニメ好きの外国人も多い。一方でプロデューサーたちは、自分で日本語を読めないからリサーチに限界がある。そのため、面白い作品があったり、面白いコンテンツを知っている人間がいたら、ぜひ紹介してくれとも言われた」

 ロサンゼルスに拠点を構える白田弘樹さんも、日本アニメの海外売り込みに関わるインデペンデントのプロデューサーの1人だ。最近では、冒頭で紹介したMONSTERの実写映画化に関わった。

 白田さんは最近、この手の動きは第2の“波”が来つつあると感じている。「かつては映画化の話を持ち込んでもあまり関心を示さなかった企業が、向こうから『実はあのマンガの映画化権がほしいんだが』と言ってくる。ドラゴンボールなどが話題になった当時を“第1次ブーム”と位置づけるなら、最近は第2次ブームだと思う」

 なぜ、ハリウッドは日本のマンガに注目するのだろうか。非常に基本的な部分として、原作が面白いから……という理由があることは間違いない。ハリウッドは前述のとおり、常に面白いテーマ・ストーリーがないか探している状況にある。

 だがそれ以外の理由として白田さんが指摘するのは、日本市場のおいしさだ。「映画産業的に見ると、日本は米国と同様に大きな、見逃せない市場。米国と日本の両方でヒットを飛ばすことができれば、興行成績も満足のいくものになる」

 例えばマンガではないが、トム・クルーズ主演の映画「ラストサムライ」は全米で1億ドルを超える収入があった上、日本でも100億円を超える興行収入を稼いだ。「最近でいうと『硫黄島からの手紙』もそうだと思うが、日本と米国の両方の市場を狙えるというのは重要だ」(白田氏)

 この観点でいうと、日本アニメの実写映画となれば、日本で多少なりと話題になることは間違いない。その上、日本のマンガ・アニメは欧州でも人気がある。アメリカのみならず、上手くすれば世界の市場を狙えることになる。この点でジャパニーズ・コミックの映画化は旨みが大きいのだという。

■いつも読んでいる少年誌の、あの作品も?

 白田氏は、自身も次なるジャパニーズ・コミックの売り込みを狙っていると話す。作品名は明かされなかったが、一般論として週刊少年ジャンプ/マガジン/サンデーといった発行部数の多い雑誌で連載されているものも、検討の対象になっているようだ。

 「現在も、複数のプロジェクトが進行中。今年中にはそのうちのいくつかを発表できれば」と白田氏。実際に映画館で封切されるまでは多くのステップを踏む必要があるとはいえ、今日もハリウッドでは、どこかで日本マンガの映画化計画が動いている。