特別待遇
「黄色とピンクどっちがいい?」
江の電に揺られながら三井と宮城は並んで座っていた。
夕方の車内は通勤通学の人で混んでおり、肩が触れ合っている二人は窮屈そうに身体を縮めている。
「はぁ?!」
ガタゴトとレールの上を走る車体は、揺れる度に軋んで大きな音を立てていた。
「黄色か?ピンクか?どっちだ?って聞いてんの!!」
電車の音にかき消されないようにと、声は自然と大きくなる。
何のことだろうと宮城が返答に迷っていると
「ほら。」
三井はポケットから取り出して、手に持っているものを宮城に手渡す。
「じゃ〜〜ん♪黄色だぜ?!」
「って・・・・ミルキーじゃん。三井サン、黄色っつたって味は同じ・・・・。」
「嘘だ!味が同じなのに、なんで包み紙の色を変える必要があるんだよ!?」
「いや〜、三井サンみたいに喜ぶガキがいるから・・・あ・・・。」
宮城は(ヤベェ〜言っちまった)と三井を子供扱いする様に、意地の悪い言い方をワザとした。
不愉快という時にはこういう顔をするんだと、お手本のような膨れっ面で三井は口を尖らせていたので、
(じゃ、やらねーよ!)とでも言われるのかと宮城は思っていた。
が、意外にも三井はミルキーをポイッと宮城の胸に当てて投げてよこしたので、
それは膝の上に乗せているカバンと腹の隙間に転がってしまった。
「大事に取ってあったのによぉ・・・・・。」
「何?黄色のをっスか?!」
宮城がゴソゴソとカバンを動かしてミルキーを探しながら聞いた。
「ちょっとしか入ってないから。あん中じゃ〜特別待遇なんだよ、オレ的には。」
「特別待遇ねぇ〜・・・。ふ〜ん。」
ふて腐れた顔をした三井の横で、すまし顔の宮城はニヤつくのを何とか堪えていた。
「口元緩んでるぞ?」
「だって、その特別なモンを俺にくれちゃうなんて、勘違いしちまいそうなんスけど?」
「おうよ。しとけ、しとけ。」
さらっと返してきやがった。
しかもこれっぽっちも心が篭っていなくって腹立たしい。
彼の返事の内容には意味などないのだと宮城は落胆しながら、貰ったばかりのミルキーを
何がどうして特別なんだと口にポイッと放り込んだ。じわっと広がった甘さで頬が痛い。
「あ!丸めるな!よこせ!」
「え?どれ?」
「それ。」
「え、コレ?!」
宮城から黄色い包み紙を取り上げると、三井はその紙にピンクの包み紙から取り出したミルキーを入れ替える。
まるで最初からその包み紙だったとでも言うかのように、それは三井の手の平で輝いていた。
「あんまり聞きたくないけど、それ・・・何やってんスか?」
「リサイクルだ。」
「って意味が判んねぇよ・・・。」
「ほら。コレやるし。」
目の前で黄色い包み紙に入れ替えられたそのミルキーを貰うと、宮城はまたポンと口に入れた。
先程のミルキーと一緒になり口の中で特大サイズになっている。かなり実力のあるサイズだと
感じながらモグモグと口を動かす。
ミルキーの歯に対する密着度は、見た目によらず凄い威力を持っているので、噛みしめた時に奥歯の詰め物が
取れやしないかと一瞬不安が過る。糖の浸透圧で先程からちょっと歯も痛い。
三井は2個取り出したミルキーの内、ピンクの紙で包まれた方を自分の口に放り込んだ。
黄色い方をまた大事そうに学ランのポケットにしまうと、ポンポンと上から叩きながら何やら一人で納得
しているようだった。
「有効なリサイクルとは思えねぇ・・・。」
先程から使いまわされているシワのある黄色い包み紙を、宮城はクシャっと丸めて三井に投げつけると彼は悲しげな顔をしながらそれを大事そうに広げてこう言った。
「なんだ?1コじゃ物足りねぇの?」
また三井が入れ替えようと、ピンクの包み紙からミルキーを取り出しているのを見て、宮城は呆れる。
何故そんなに三井が黄色の包み紙にこだわるのか判らなかった。
「それに特別待遇どころか、酷使されてんじゃ・・・・・」
「何か言ったか?」
いや、三井サンそこは聞き返さないでくれ。
余計な事を言ってしまわないようにと、宮城は(なんでもないっス)と首を振る。
三井がまだミルキーを寄越そうとしているのが見えたので、まだ口の中に入っているから断ろうと思った。
正面に立っている子供が、ミルキーを頬張っている自分を羨ましそうにジッと見つめており、こちらが更に
もの凄く美味しそうに食べてみせると何度も振り返りながら次の駅で電車を降りていった。
鎌倉へと向かう途中、ふと混み合った車内で進行方向の先に夕陽が沈んでゆくのが見えた。
乗車している人の隙間から見える太陽は、目を細めたくなるほどに眩しく、煌煌と輝いていた。
正直、毎日のように見て気にした事などあまりなかった夕陽。綺麗だなと感じる事も、今は少なくなったのかもしれない。
たまには、こんな日があってもいいと宮城は思う。
大した会話もせずに、ただ肩を並べているのも悪くない・・・・と。
三井が電車の揺れに関係ない動きで宮城の肩を押し返し、やめてくれと宮城は膝をぶつけて蹴り返す。
今度はクツを踏まれたので、その上から自分の足もろとも踏んでやった。
あれはあれ・・・。
ま、これだって本人達は結構楽しんでいるのだ。
そう噛みしめるように思うと、口元をきゅっと結んだ。
気付くと・・・またミルキーが胸元に投げられていた。
「あ、もういいっスよ?本当に。」
三井サンのその気持ちだけ頂いておきますから、とお礼の笑顔と共に寄越されたミルキーを返そうとして手に取った。
「コレって・・・・・・?」
ピンクの包み紙は不恰好で、三井の不器用さをそのまま形にした様だった。
「あ〜それ?・・・・ゴミ。」
笑顔の三井を見て思った。
・・・・・やっぱり嫌いになりたい。
藤原のいらんコメント
嫌いになんてならないで〜!!と思いつつもやっぱり傍若無人な三井サンには
流石のリョータさんも疲れてしまいますか・・・しかしそこが三井サンの魅力であると同時に
私たち読者をも存分に楽しませて下さいます!!
もうこの三井サンのアホなほどのカワイさはhiyoriさんの表現技法に屈するしかありません。
突拍子もない行動と端々に見え隠れする青二才っぷりがもうかわゆーてかわゆーて・・・
賛辞の言葉のギリギリっぷりから私がいかにhiyoriさんにメロメロなのか察してください(笑)
会話のテンポが男子高校生ノリで軽快なのもノスタルジィにひたらせて下さいます。
もう出来上がっちゃった感じのさりげない甘さにも酔わせて頂けますし、やっぱりリョ三一本で
勝負されているhiyoriさんの文章は一味もふた味も違いますね!私、萌え死にそうで本望です!
小道具の使い方も効果的で・・・差し歯にミルキー挟まったらヤバイですよね!仲良しなお二人さんに
萌えてる場合じゃないです!(笑)ミルキー最近食ってねぇなぁ・・・私も幼少のみぎりはピンクと黄色
味ちゃうんや思ってましたから三井サンをバカに出来ないのですが・・・やはり黄色ミルキーの方を
特別視していましたよ!あの甘さをリョ三に浸りつつ食したくなってまいりました。そんで包み紙
酷使するの♪酷使するのは「特別だから」で、結局宮城は三井サンの特別待遇者なのではないでしょーか。
例えゴミ処理係にされても、そこに愛があれば大丈夫なのですv
hiyori大明神様!秋の夜長にハートウォーミングなリョ三ありがとうございました!!挿絵がヘたれですみません!