グッデイグッバイ。
「いい街だな。なんつーか都会だけど温けぇよ」
三井はそう言って、コンビニで買ったペットボトルに口をつけるとそのまま笑った。
にごった海が広がりゴミの散らばる臨海公園においても、鮮やかな彼の姿に三井の背後に
立つ長身の男は細い一重の目を更に細めた。
「せやろ。俺みたいなエエ男もおるし」
「生言ってんじゃねぇよ。うぬぼれんな」
「でもそう思てくれてるから今日来てくれてんやろ?」
日光に透ける淡い栗色の髪と綺麗な笑みに、振り向いた三井は険のある目つきを僅かに
緩和させると腰掛けていた階段から立ち上がった。
大阪弁の男より少々劣るが、それでもすらりとした長身が背景に眩しかった。
「もー帰るん?」
「・・・新幹線間に合わなくなっちまうし」
あくまで一定の男の口調に、三井は凛々しい眉を少ししかめ、ワックスで立てた自分の前髪を
くしゃりと握った。
「俺わかっちまうんだよ。てめぇの思ってること」
「かなんな。カッコつけとる意味無いやん」
うすっぺらな強がりで隠しても、彼には見抜かれてしまう。
長身の大阪人はほんの少し儚さを含めた笑みを唇に刻んだ。その仕草が別離を雄弁に惜しんでいた。
「でも俺ももう大人やし。行かんといてなんて言いたないわ」
いくら好きでも彼の行動まで束縛することは出来ない。
独占欲はそのポーカーフェイスに隠して、彼という選手を愛する地方に返す。
そして自分は、また一つ成長した彼と会うのを楽しみに待つのだ。それもひとつの幸福で。
そのときが来るまで待ちつづける日常もまた平穏を愛する彼には幸せだった。
ひょうひょうとした笑みを絶やさない彼に三井は焦れて、すいと自然に近づくと、
小さな頭部を長身の彼の肩に預けた。
「顔と一緒で性格まであっさりしすぎなんだよてめぇ。俺ばっか会いたがってて馬鹿みてぇじゃん」
「せやかてしゃーないやん性格やもん。それにそのぶん三井が積極的になってくれるさかいえーねん」
ほら、こういうのが幸せでたまらんねや。
男は笑うと三井の頭を丁寧に両手で挟み、くっと首を傾けると軽くキスを施した。細かい吐息が
繋がった個所から漏れ、三井の微かに潤んだ声にたまらなくなる。
「あー・・・めっちゃ好っきゃ・・・」
鍛えた腕で、しなやかな体躯を抱きしめた。
「全く同じの、前にも言った・・・」
三井は紅潮した頬を伏せ、少しだけ相手の腕に長い指を添わせた。
「ごめんやで。でもちゃうんや」
「?」
「含まれるモンは全然ちゃうんや。どんどん強くなって行きよる・・・」
いずれ、三井が故郷へ帰るのを全力で引き止める時がきてしまう。
確信をもたせたぎらつく瞳で、長身の男は三井の肩口に顔を埋めた。
このまま喰いつくしてしまえたらどんなにええか。
「てめぇだけだと思ってやがんのか?俺も・・・そうだ。日増しにとんでもなくなってくる。
この街とお前に対する感情が・・・」
悔しそうに三井は唸った。まだ余韻に湿った唇が「土屋」と紡いだ。
呼ばれた男はひゅっと困ったように眉をふぞろいに動かすと苦笑した。
「今度は俺が行くし。俺もまだまだ好きなるんやろね。お前と湘南が・・・」
もう一度抱きしめて、あっさりと離した。
でも手だけもう一度長い指を絡めあう。
その形からもう好きだ。
土屋はおどけた調子で三井に笑いかけた。
「駅まで送らせてくれません?名残惜しいんで」
滅多にあえない中で、更に滅多に見せない素直な瞳。
三井は笑って、土屋にされるがまま手を引かれた。
彼の調子に乗るように唇を動かした。
「しゃあないなぁ・・・」
「・・・やっぱなんか不自然やで、関東の奴の関西弁。ごめんキモい」
「てめぇ・・・俺がサービスしてやったのに・・・」
「あ、ウソウソ。ホンマはトキメキました。でも可愛くて帰したくなくなったら困るやろがい」
2人の人影は長い影と絡み合う声を連れて、公園を後にした。
自分で書いてて恥ずかしさに死にそうになりました。
認めたくないものだな。若さゆえの過ちというものは・・・(吐血)
サイトにいらっしゃってくれる僅かな土三子(読み:ドサンコ)の皆様へ。
感謝のしるしに・・・(迷惑です)
関西人なら土屋さんはやはり応援せずにはいられないっすー。
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