キャプテン出番です《完全版》仙三ですから…。もはや影も形も無し!!

                          みどりーぬ様 -22 Jul 2002 (Mon) 22:31:21-


「いけねえ、もう行かねえと」
ぼうっと物思いに耽っていた流川だったが、ふと気が付いて時計に目をやった。
「あ、そう。またな」
よっぽど慌てているのだろう。荷物をまとめるのもそこそこに自転車に飛び乗るや否や、流川の姿は見る見る
小さくなった。
「それにしても分からない。なんで流川のヤツは三井さんの事であんなに赤くなるんだろう」
自分より小さいとは言え、180を有に超す大男。それなりに筋肉の盛り上がった肩の上に乗った顔は小作りで整ってはいるが、長いヤンキー生活のせいで、目付きが鋭い。いや、荒んでいるとでも言うのだろうか。夜道では決して出会いたく無いタイプだ。
「いいトコのぼっちゃんらしいが、どこであんな汚い言葉遣いを…。あ、不良時代か?いや、あれは板につきすぎている」
「おう、流川のヤロウが来なかったか?」
「そうそう、おまけにこんな濁声だし。煙草はやったことないなんて怪しいもんだ」
「このバカ、何ぶつくさ言ってやがる。おい、スットコドッコイ!」
「ホントに口汚いなあ、あれでケンカ売られたらどんなヤツだって」
「こら!仙道!!」
「え?せ?オレ?あっ!!!」
いつの間に来たのだろう。うさんくさそうに眉をしかめ、まるで小動物でも威嚇するように三井がじろりとこちらを睨み付けていた。
「み、み、みみみみみみみみみっみみみっみっ!」
そのあまりの恐ろしさに仙道自慢の立ち上げた前髪の先が、ぞわぞわぞわと3センチほど更に逆立った。
「てめえは、みんみんぜみか!!!」
「三井さん!何故ここへ?!」
(はあはあはあ、いやな汗かいっちゃったよー。それにしても恐い顔。ひゃああ〜〜!!)
「ふん、相変わらず妙なヤロウだ。流川探してんだよ。来なかったか」
「あ、流川なら、さっき帰りました。すれ違いませんでしたか?」
「いや、今日は運転手付きだからよ。そうか、遅かったか」
「う、運転手ですか?」
「ああ、ちょっと風邪気味なもんでおふくろが乗ってかないと家から出しませんよ!なんて言いやがって」
「あ、あの、その車って…」
「ああ、そこに停まってるせこいベントレーだよ。ホント、だせえよな」
恥ずかしそうに顎でしゃくったその先に、神々しく輝くベントレー・アルナージ。まるで黒真珠のような光沢の車体は曇りひとつなく磨き上げられ、落ち着いた淡いグレーのフロントガラスの向こうにハンドルを握る白い手袋が覗いている。
「おい!もう帰れ帰れ!これ以上付きまとうと自慢の車に穴開けてやるぞ!」
三井は手近な小石を拾うと、意地悪くにやりと笑った。
「ぼ、ぼっちゃん!」
すーっと音もなく下りた窓の中から、困り果てた運転手の声がした。
「オレ様は本気だぞ!寿は綾南の仙道って男に連れ去られたっておふくろに言っとけ!!」
「へ?オレ?」
「寿ぼっちゃん、お願いだから帰りましょう」
「うるせー!!」
ゴンッと鈍い音がした。先ほどの宣言通り、三井の放った石つぶてがピカピカのベントレーのドアに当たり、その形通りにめり込んでいた。
「な、なんてことを!」
ざっと修理費を頭の中で換算し、仙道はフッと気が遠くなる。
「ぎゃああああ〜〜!!」
『断末魔の叫び』とはこの事だ。
運転手は悲鳴をあげると車を急発進させた。きゅるきゅるきゅる!とUターンしたベントレーは、再びぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅっと発進し、盛大な爆裂音を残し、通りの向こうへ去って行く。キラリッと流星のように輝く後ろ姿を、仙道は呆然と眺める他なかった。
「すげえ、さすがV型8気筒ツインターボ…。って、感心してる場合じゃないや!三井さん!」
「ん?」
自分のしでかした事にさしたる重要性も感じず、と言うよりも毎度おなじみの行為なのだろう。何もなかったかのように三井はさっさとどこかへ行こうとしていた。
「オレが、かどわかしただなんて!ひどいですよ。もし本気にしたらどうしてくれるんですか?!!」
「ああ?別にいいじゃんか。ほっとけよ」
「よくありません!第一、ど、ど、どうしてオレオレオレがみ、み、みみっみみみみっ!」
「?」
「っついさんを!」
「何言ってっか、さっぱりわかんねえ」
「あんな事なんで言ったんですかっ!」
オレはただの純朴な高校生なのに、もしも、もしも、このまま三井さんが家出でもしたら、みーんなオレのせいになってしまう!きっと三井の母親はいろんな手を使ってオレに報復するに違いない。この息子にして母ありだ。そうしたら、オレは高校を追われ、バスケットの世界からも追放され、そして、そして…!
「…そうだな、おめえになら連れてかれてもいいかな?って思ったのかもな」
「は?」
ついさっきまで悪役商会御用達みたいにしかめられていた眉が、急に素直に緩められ、上目遣いのせいで三白眼のようだった目も、今は大きく見開かれている。なるほど、こうして変な力みが消えた顔は、確かに可愛らしいかもしれない。
「仙道、ふたりっきりでどっか行こうか…」
薄茶色の瞳が貴石のように煌めいて、じっと仙道を見上げていた。ほんのりと赤く染まった目のふちに、今にも涙が溢れそうだ。
「三井さん」
仙道はうっとりと三井の顔を見下ろした。
「仙道」
そっと触れた華奢な肩が、小さくふるふると震えていた。
「仙道、オレ…」
「はい?」
「お、お、可笑しくて…!ぷっはーっはっはっは!はー!」
「三井さん?」
突然身体を二つ折りにして、三井は文字どおり腹を抱えて笑い転げた。
「く、く、くるしー!おめえ、ノリノリなんだもん!」
「あ、あの」
「オレ様の冗談にここまで乗ってくれるヤツなんて流川だけかと思ってたのによ、ククク!まさか綾南の仙道が…!!」
大きな瞳に涙を滲ませ、三井はいつまでもいつまでも笑い続けた。
「オレ、もう行かないと」
大いに傷付いた仙道がくるりと背中を向けて帰り支度を始めると、三井はようやく笑い止んだ。
「面白かったぜ、また遊ぼうな、仙道」
「え?」
ポンッと気さくに背中を叩かれ、振り向いた鼻の先に三井のにっこり笑った顔があった。
「あ…」
「あばよ!」
まるで子どもみたいな笑顔のまま、三井はパッと離れて行った。
(あ、やっぱり帰っちゃうのか…)
その時、三井はふっと振り向いた。
「じゃあなあ、おめえ、気に入ったぜ!」
(え?)
ぶんっと大きく手を振り回し、今度こそ三井は芝生の上を駆け出した。コートで見るのとは違う、軽やかなその後ろ姿に、仙道は胸が高鳴るのを押さえ切れない。

「三井さん…」

こうやって三井は男どもを虜にしてしまうのだろうか?名前を口にしただけで、耳まで赤くなった流川の顔を仙道は思い出した。

(いいなあ、あいつは同じ学校にいられて…)


オレ、男に好かれたいかも…。

もしも宮城が戻って来たら、全身に鳥肌を立て、ショックのあまり全治七日の熱を出すような台詞を、仙道はどこまでも青く澄み渡る青い空に向かって、うっとりと呟いた。





みどりーぬ様のコメント
トラトラトラ!我、奇襲に成功せり
公約通りです。ゲソ様の飛来、心よりお待ち申し上げております。やっぱ先にやった方が勝ちよね?(おーっほっほっほ!)

藤原の勝手にコメント

素晴らしい女王っぷりに眩暈が・・・リョ三祭りでテンパっていたところに襲撃を食らいました。
仙道さんの情けなさに拍車がかかっている辺りで爆笑です。ひゃああ〜って(笑)
そして傍若無人な三井さんが素敵です・・・まさしく魔性の男!!ベントレーがベントレーが!
と貧乏人の私は大騒ぎです。そして仙道さんの被害妄想がおかしいのなんの!!でもまぁ
たしかに彰からバスケをとったら身体しか残らないような気も・・・(酷)
そしてどこまでも仙道(と流川)を狂わせる三井さんの魅力にときめきました。そりゃ最後に
あんなこと言われたら彰も目覚めるさ・・・仙道と流川の愛をかけた1on1に期待です!!
仙リョ小説を万人向けにして下さって(笑)みどりーぬ様有難うございました!!
この恨み・・・もとい恩は忘れませんので、季節はずれの襲撃にはご用心をvv
それではネットへの復帰、お待ち致しております。


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