幻影











現在、幸山という山がある。その名の由来は、貴也がさちに会い、幸せを運んで
もらった山というのが残ったのかもしれないと、僕はその話を読んで思った。
僕は、原稿のネタが、全然浮かばずにいた。浮かんだとしても、それは、ながながしい
ミステリーになるものばかりだった。
だが、この話を読んでるうちに、なぜだかわからないけど、あせっていた気持ちは
晴れ、すっきりした気分になった。
気分転換も兼ね、幸山へさちの様子を見に行くことにした。
帰ってきてから、2時間は軽くたっている。さちのことが気になった。
幸山へ行く途中、暑かったので、さちと食べようと、かき氷を2つ買って急いだ。
今、時刻は11時18分。
だが、歩いている最中、僕には、嫌な胸騒ぎがしていた。さちが今すぐ消えるような気が・・・。
もう探し物が見つかって、幸山にいないかもしれないと思いつつも、足は自然に幸山へ
向かっていた。なぜだか、さちに早く会いたかった。
「はぁ、はぁ・・・・」
幸山の頂上にたどり着くと、さちの後ろ姿が見えた。
(よかった・・・まだ、いる・・・)
「さち」
「・・・椋」
振り向いたさちの顔には、笑みが浮かんでいた。
「どうかしたのか?」
「あったの!探し物。私うれしい!」


かき氷を食べながら、僕はさっき見つけた興味深い昔話について、さちに話した。
「さち、僕はさっき家に帰ってから、図書館へ行ったんだ。そして、いろんな話を
読んでるうちに、すごく古い話を見つけたんだ」
かき氷をひと口食べて、そのまま続ける。
「あるところに、若い男が1人でいた。彼は、幼い頃に両親を亡くして1人だったんだ。
村人とは、仲がよかったんだけど、彼しか若者はいなくて、あんまり村人とも
話さなかった」
「・・・へー」
「ある日、その男は、山へ木を切りに行って、そこで、1人の女に出会った。
自分と同い年くらいの女で、その女は、彼に“幸福をもたらす”と言ったらしいんだけど、
彼女の方がさびしそうだったので、彼は、自分の母親の形見を渡したんだ。そして、
彼女が消えて家に戻ると、たくさんうれしいことが起きたんだって」

さちは、黙りこんだままだった。
買ってきたかき氷は、ひと口も食べておらず、もう溶け始めている。
しばらくして、さちはやっと口を開いた。
「よかったね、その男の人、幸せになって」
その言い方が、ぎこちなく感じられた。すごく、無理をしている気がした。
「本当によかったのかなぁ・・・」
僕は、つぶやいてみせた。正直に思ったことが、口をついて出る。
「たぶん、彼に幸せな日なんて、1日もなかったと思うよ」
「なんで?」
「だって、初めて自分と同じくらいの年齢の人としゃべったんだよ。しかも、母親の
形見まで渡してるんだ。僕なら、よっぽど知っている人か、特別な人にしか渡さないな」
「・・・・・・・・・」
さちは、また黙りこんだが、僕は続けた。
「彼はきっと・・・きみと一緒にいたかったんだね」
「・・・・・・・・・」
黙りこんだまま、さちは、ただ静かに泣いていた。

時のたつのは早く、気がつくと、もう夜の7時を過ぎていた。
西の空は、少し赤く染まり、星も輝き始めている。
さちは、しばらく泣いて落ち着いたらしく、僕にたくさんのことをしゃべってくれた。
しばらくしたところで・・・
「・・・もう、行かなくちゃ」
「迎えに来るのか」
「うん・・・」
そう言って、さちが立ち上がったとき、朝、高校の教室から見えたオレンジ色の物体が
急に僕たちの上に現れた。
さちは、それを悲しそうな目で見つめ、それから、僕の方に向き直った。
「・・・・・・・・」
だが、なにも言わなかった。僕も、なにも言えなかった。
下の方が開いて、さちはのぼっていく。その大きな入り口の中はまぶしすぎて、とても
じゃないけど見れなかった。
僕もさちも、なにも言えないまま・・・さちは、帰っていった。


セミのうるさい合唱が、急に始まって、僕はハッと我に返った。
あたりを見まわせば、見慣れた教室がうつっていた。
時計を見ると、11時43分・・・
僕は、寝ていたのか?じゃあ、さっきのも、夢?
「・・・そうだよな、宇宙人だなんて、そんなこと」
そう思ったのは、事実だ。だけど・・・
ふっと、幸山に目をやる。
「夢には、思えないんだけどな・・・」
どっちでも、いい・・・ただ、確かめたい。
そう思った僕は、もう1度、幸山に行ってみようと決心した。

そして・・・・

(さっき、さちがいたところは・・・と)
あそこに行ってみた。すると、そこには、オレンジ色に光る石が落ちていた。
それを手に取り、しばらく見つめる。
「さち・・・ありがとう・・・」
なぜか、そんな言葉がもれた。

次の日、僕の作品は完成した。
やっと僕も、なんの心配もなく、夏休みが過ごせるようになった。
もちろん、さちたちの話をネタにしたことは、言うまでもない。



(幻影 あとがき)

長らくお待たせいたしました、読み物 第3段!!
読んでいただきありがとうございました。(ぱずりんぐわーど)です。
この読み物を載せるまでに、はたして何か月かかったでしょうか?
自分で2ヶ月おきの締め切り、と決めたくせに・・・いつのまにか9ヶ月
経過しています。

はてさて、読み物 第3段「幻影」いかがだったでしょうか?
今までの2つのストーリーとは、まったく異なる、新しいタイプのストーリーと
なってしまいました。
このストーリーは、高校生の少年・椋と、地球人ではない少女・さちの2人が
出てきます。
夏休みに入ったばかりの、とある1日のできごと。
このストーリーは、椋の・・・ほんのささいな夏休みの発見を記したものです。
とはいうものの・・・実は、このストーリー、私の友人のつくったものでして、
私は、それをアレンジさせてもらったのです。
この読み物を載せるにあたり、その原作者からも、メッセージをいただきました。

(原作者より)
はじめまして〜〜〜!「幻影」の原作者、(そうほう くれは)です。
この話を書いた理由を、ここでさくっと説明したいと思います。
当時(2001年 7月ごろ)、私は、文芸部に所属してまして、文化祭に出す
部誌をつくらなければいけませんでした。
そして、この作品を考え、部誌に載せたわけですが・・・・。

ん〜〜〜、主人公・椋は、そのときの私の心情に近いです。
文芸部に所属している→文化祭に出す部誌をつくらなきゃいけない、というこの流れ。
別に、さちとかに出会ったわけではありませんが、部誌に載せるにあたって、
ページ制限があり、そうとう悩みました。
「これでは、私の大好きな長編ミステリーが書けないじゃないかぁ〜!」と、そんな感じで。
椋も、私に似せてありますので、きっと、彼もこう叫んでいたことでしょう(笑)。

ページ制限があると、なんとも書きづらく、ましてひとさまにお見せできるぐらいの
ものにしなければいけません。
それに、1学期の期末が終わってから、終業式までの約20日間の間に仕上げないと
いけなかったから、時間がなくて・・・・。

まず、夏休みが終わった直後の文化祭に出すものですから、「夏もの」とは思いました。
そして、夏といったら不思議系?みたいな感じで、でも恋愛ものじゃなくて・・・。
主人公は、絶対、男!なぜなら、女の子が主人公だと、すごく恋愛ものになりそうな
気がしたからです。未成長な男の子は、書きがいがあると思うんで。

まぁ、そんなこんなで、1年以上前の作品を、思い出してみました。
この作品は、私が初めて完成させたもので、かなり思い入れがある作品です。

(ぱずりんぐわーどのあとがき 続き)
と、まぁ、原作者からです。
アレンジした私としては、原作をもとに、うまくアレンジできたと満足しています。

このHPができて、1年以上がたちました。
1年で、みなさんにお見せできた読み物は、3つ・・・。
決して数が多いとは思いませんが、できるだけ書いた自分も満足できるような
作品をみなさんに読んでいただけるよう、これからもがんばっていこうと思います。

次回、読み物、まだ未定ですが、再び、私の完全オリジナルストーリーでいってみようと
思います。読者様からのリクエストがないので、ほんと好き勝手やらせてもらってます。

今回も、この読み物を載せるにあたり、メイン管理人のゴマ太郎様に、ご迷惑を
おかけいたしました。
それでは、ここまで、おつきあいいただき、本当にありがとうございました。

(2002年12月25日 ぱずりんぐわーど)












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