BRAT BOYS















あなたが、人に素顔を見せるのは、どんなときですか?
そして、その素顔を見せるのは、誰の前でなのでしょう?
そして、彼の場合は・・・・
これは、彼が大学生になってから、初めての夏休みでのできごとです。

「あ〜、やっと今日で夏休みかぁ・・・」
7月末日・・・・・
高校まででいう1学期の授業をすべて終え、彼の心は、はればれとしていた。
なにしろ、大学生になってから初めての夏休み。
なかなか慣れない大学の環境から解放されることもあってか、彼の安心感は、
受験が終わったときの何倍も心の中にあった。
「さーてと・・・この夏休み、どう過ごそっかなぁ・・・。
まっ、今日はとりあえず、のんびりするとするか」
そう言いつつ、ベッドに寝ころんだとき・・・
ガチャッ
「兄ちゃーん」
電話の子機を持った弟が、彼の部屋に入ってきた。
「んあ?」
「電話だぜ」
「ああ、さんきゅ」
上半身を起こし、受話器を受け取る。
「もしもし・・・・」
・・・そう、この電話が、すべての始まりだった。


「はぁっ!? どーゆーことだよ!? それは」
「だから、そーゆーこと」
数日後・・・
友人の佐木 敦司に呼び出された、彼・鳴滝 快飛は、話を聞き終わると同時に、
びっくりして大声をあげた。
「オレはなぁ、久しぶりに小学校時代の友達同士で集まるっつーから来たんだぞ。
それがいきなり、なんで、東海小学校の体育館に連れてこられなきゃいけないんだ!?」
「うそじゃねーって。もーすぐ、みんな来るだろーしさ」
「そーゆーこと、聞いてんじゃねえっ!!!」
今度は大声に、プラス、どなり声。
いつも冷静な快飛が、これほど相手にどなりつけている。
それは、先ほど敦司から聞かされた話が、原因であるにほかならない。
「9月にある東海小のオータムフェスティバルに、もと4年A組のメンバーで出場しろだって!?
なんで、いきなりそんなことしなきゃなんねーんだ!? ふざけんなよ」
「だって、そーゆー形で、もう話進んでんだもん。仕方ねーだろ」
あっさりと答えるもと同級生に、快飛は、かなりキリキリ来ていた。
オータムフェスティバルとは、中学・高校でいう文化祭のことだ。
普通、その校内だけから行われるはずの出しものに、敦司と快飛が過去存在していた
もと4年A組が出場するということになっているという。
「ったく・・・誰だよ。んな話持ち出したのは・・・」
「当時の担任だよ。受験終わって、大学入って、ちょうどひと息ついてるだろうからってさ・・・」
「それは、わかるけどさぁ・・・」
“いいかげんにしろよ”というよーな感じで、快飛は深くため息をもらした。
東海小のオータムフェスティバルに、ゲストで出場。
・・・いきなり、そんなことを言われて、納得できるほど、彼は軽い性格ではなかった。
「だいたい・・・なんで、オレたちなんだよ・・・。あの担任が教えた卒業生、他にもいっぱいいるだろ?」
「おっ、さすがに快飛するどいじゃん。そうそう。オレも、それは思ったんだよ」
「だろ? 9月まで、1ヶ月ちょっとだし・・・やることも、これから決めんのに・・・
そりゃ、確かにオレたちは学生だから、のんびりしてるといやぁ、してるけど・・・」
ぽんっ!
「ん?」
にっこぉ〜〜〜〜
「な、なんだよ・・・」
不意に肩をたたかれ、そっちの方を見た快飛。
その先には、満面の笑顔で自分を見ている敦司がいる。
快飛は、思わずたじろいた。
「・・・なんか、たくらんでるだろ、おまえ」
「たくらむ? 人聞き悪いなぁ。オレは、ただ担任から言われたことを、そのまま伝えてるだけだよ」
「つまり、なにが言いたいんだ? おまえは」
いまいち話がつかめない。もったいぶって言う敦司に、快飛は先をうながした。
「さて、ここで問題! 快飛、小4の時、学級委員だったよなぁ?」
「は? ・・・そーだけど、いきなりなんだよ?」
「この出し物は、もと4年A組のメンバーですることになってます。
普通なら、そーゆーとき、まず誰に連絡が来るか?」
「・・・オレ・・・か?」
数秒の無言のあと、快飛は、おそるおそる答えた。
なにか嫌な予感がする。
答えながら、快飛は同時に、なぜかここにいては、いけないよーな気もしていた。
「そう! 普通は、当時の学級委員だった快飛に連絡が来るはず!
しかぁーし、なにゆえ担任は、オレに連絡してきたのでしょーか!?」
「知るかよ、そんなこと・・・。どーせ、おまえが1番暇だったんだろ」
あまり相手にせず、軽く受け流す快飛。
「あいかわらず、冷てーなぁ」
「悪かったな。いやなんだよ、よくわかんねーことに巻き込まれるのは」
“いてはいけない”とゆーより、“いたくない”という方が正しいかもしれない。
快飛は、敦司の笑顔に、なにか裏があると思わずには、いられなかった。
「仕方ねーなぁ。わーったよ、ちゃんとわかるよーに説明してやるよ。
まぁ、簡単に言うとだな、やる出し物は、もうすでに決まってんだ」
「はぁ? じゃあ、なんでオレたちの、もと4年A組がやんなきゃいけないわけ?
誰が出るか、ちゃんと相談してから決めるってーのが普通だろ?
そんなこと勝手に決められちゃ、こっちだって、たまんねーよ」
敦司の話が、まともに把握できないせいか、快飛は、どーも納得いかない。
「そーだなぁ、屋台とかだったら、どの卒業生だってできるもんなぁ。
でもな、担任言ってたぜ。“もと4年A組のオレたちにしか、できないものをやってほしい”って」
「オレたちにしかできないもの?」
敦司に言われ、しばらく考えこむ。が・・・
「そんな出し物、やっぱないって。ないない!!」
話は終わりだと言わんばかりに、快飛は、体育館の出口へ歩きかける。
考え込んだ素振りを見せたものの、結局はやりたくないとゆーのが、快飛の本音だった。
「オレ、もう帰るからな。やること、ちゃんと決まってから、もっかい連絡くれよ。
場合によっては、協力してやるから」
「かーいひ♪」
「・・・・・・・・・」
再び敦司に名前を呼ばれる。しぶしぶながら、これで最後だと思い、快飛はゆっくり振り向いた。
「・・・なんだよ?」
「これ、なーんだ?」
「!?」
その瞬間、快飛の顔がひきつったのは、言うまでもない。
「そ・・・れは・・・」
口では言い表せないほどの驚き、そして、逃げ出したいほどの恐怖が、快飛の心を埋めつくした。
「・・・やだぞ、オレ。絶対やだからなっ!」
「残念でした。もう決まってんだ。これ、オータムフェスティバルでやるんだからな!」
冷や汗をかいて、後ずさりしている快飛とは対称に、当の敦司は、やる気まんまんだ。
「オレは絶対やらねぇっ! あれをもう1回やれだって!? オレ、絶対、オータムフェスティバル
参加しないからなっ」
体育館全体に響きわたる大声で、快飛はどなった。だが、敦司の方は、けろりとしたものだ。
「そう言うと思ったよ。でも、あれやるには、快飛いなきゃ始まんねーもん」
「だとしても、オレはやんない」
「・・・だめ?」
「だめっ!!」
「・・・どーしても?」
「どーしてもっ!!」
以後、この言い争いは3分続いた。そして・・・・・
「どーして、そこまで嫌がるんだよ? 別にいーじゃん」
ひと息ついてから、敦司が改めて話しかける。
「そりゃ、おまえはいーだろうよ」
くるっ
答えるだけ答えると、快飛は再び敦司に背を向ける。
「帰る」
「おい、待てって!」
「やだ」
と・・・
ガラッ!
「よお! 敦司、快飛、久しぶり〜!!」
「うっわぁ、なつかし〜! 東海小の体育館、変わってないね〜」
体育館の扉が開き、もと4年A組だった2人のクラスメートが、どやどやと入ってきた。
「なんで、みんなが・・・?」
「言ったろ?“もーすぐ、みんな来る”って」
目が点になってる快飛に、敦司が言う。
その表情はどこか楽しそーで、快飛にとっては、帰るに帰れなくなってしまった。
すると・・・
「そーいや、快飛、オータムフェスティバルで、またあれやるんだって?」
クラスメートの1人が、不意に快飛に切り出した。
「・・・誰が、んなこと言ったんだよ?」
不機嫌さを隠そうともしないで、快飛は答える。
「敦司」
「・・・おまえなぁ」
「えへへ〜」
聞くまでもなく、快飛は、敦司をにらみつけた。
「ったく・・・言っとくけどなぁ、オレは・・・」
「あれやってくれるって! あっさり引き受けてくれたんだよ、快飛のやつ。
さっすが、もと学級委員だよな!!」
“オレは、なにもやる気ない”と言いかけたところをさえぎられ、勝手なことを言われてしまった。
「て、てめえは次から次へと・・・」
その原因は、もちろん敦司に、ほかならない。
「よっし、じゃあ準備するぞ〜!」
「これから、また忙しくなりそーだね」
「えっ・・・ちょっ・・・違うって!」
てきぱきと準備を始めるクラスメートたちに、もはや快飛の言葉は、耳に入らなかった。
「!?」
にっこぉ〜〜〜〜〜〜〜〜
ふと敦司を見ると、やはり笑っている。
「・・・はめただろ、おまえ」
「はめた? 人聞き悪いなぁ。オレは、ただ担任から言われたことを、そのまま伝えてるだけだよ」
「〜〜〜〜〜っ」
「さあ! みんな、行動開始だぁ〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
「おーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
・・・そう大声ではりきる敦司の手の中には、快飛をあそこまで嫌がらせ、怒らせたものが、
しっかりとにぎられていた。直後、快飛の絶叫。
「オレ、やっぱりやんねーからな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」