No.35 安心コミュニティプラザ 風の家

2004年10月
杉の4寸角でトラス組みと貫を複合した小屋組スパン8.5mの施設(構造材に兵庫県産材を使用)
意匠設計渡辺建築設計事務所(アトリエ・ワンより改称)
構造設計木構造建築研究所 田原(担当: 嶋田)
施工者 (株)上野工務店
 

「阪神・淡路大震災」の震災復興土地区画整理事業の一環で、平成18年春オープンに向けて造成中の8,000uの六甲道北公園内に、一足早く完成した県復興基金による「安心コミュニティプラザ」新築工事が竣工。

地域の人たちの"復興まちづくり"の一環として、平成15年3月開催された集会所設計コンペの当選作品。

木造の平屋建てで、延べ床面積約50坪 木造在来軸組工法。



木造は「阪神・淡路大震災」で被害を受け、「木造は弱い」というイメージが植え付けられたが、そのイメージを払拭したいということで取り組んだものである。



 

構造的な特徴としては、県産材を利用した公共施設には集成材と特殊な金物を使用したものが多く、建設コストが割高となる傾向がある。

そのため、今回採用したトラスと貫の複合的な小屋組み架構は、特殊な大工技術ではなく、伝統的な大工技術で可能となる構造設計とした。

具体的には、特殊な材料等や、特別な金物の使用を極力避け、4寸角の4m材でなるべくシンプルな架構とすることにより、地元(兵庫県)の材料を使用し、地元の技術で出来るシステムとした。



 

本建物の最大の特徴ともいえる、ホールの大空間を構成している小屋組みトラスは、日本古来の伝統的な貫と西洋のトラスを複合させた、和風味のあるトラス小屋組みといえる。

トラスと貫の接合部にボルトを使用し、一部で特殊な両引きDボルト(兵庫県三木市 ヨネザワ製)を使用しているが、基本的に市販されている金物を最小限に使用し構成している。



 

構造的な特徴としては、トラスと貫のそれぞれの特性を活用したものであり、トラス材は軸力処理を図ったもので、接合部設計としては日本の伝統構法の貫を応用し、めり込み特性を活かした接合部とした。

ドームのような大空間を、このような小断面で木組みにウェイトを置いた構成は無理かもしれないが、職人技術と構造技術が融合すれば、本施設のような10m程度のスパンであれば小径材でも十分可能であるといえる。



また、今回使用したような杉は、集成材や名産地のような杉ではなく、日本農林規格が定めるヤング係数の基準値である「E70」に満たないような杉も一部あり、基準値よりも低い材料や、小径木(間伐材)のような未利用材を使用していかなければ、日本の林業の活性化はありえないと思われる時代になっている。

低ヤング係数の杉を使用しても、応力の小さい部分に使用することで構造的には、何の問題もない材料となり、今回の工事においても、特別にいい材料のみを選別したわけではなく、悪い材料も含めてひとくくりにして使用し、その様な材料はなるべく応力の小さい部分に使用し、応力のかかる部分には対応できる材を使用することで、地域材(兵庫県産材)の利用の可能性を広げたものである。

このような、杉を利用して伝統的な貫構造をトラスに組み込んだ特殊と思える架構も、一般的なSやRC造の構造を業務としている建築士では、杉を活かす架構の提案をすることが難しく、木造専門の構造技術者でなければ出来得なかったと思われる。

 ©Tahara Architect & Associates, 2004