U邸改修工事

2011年6月
京都市内の民家の改修
意匠設計用舎行蔵
構造設計木構造建築研究所 田原(担当: 竹内)
施工者 あめりか屋

京都市内における、築約100年の民家の耐震改修工事である。

基礎は写真の通り、石場立てであり、礎石に直接柱が載っているだけの構造で、北側ゾーンが全体的に沈下し、建物が傾斜していた。(傾斜角1/100以上)

一部の柱脚は腐朽菌および白蟻により劣化しており、取り替える必要があった。

こういった古い民家の耐震診断や耐震補強においてはいくら詳細な調査ができて精密な計算が出来たからといっても、実際に解体して初めて分かる劣化等が確認される場合があり、その場合には再度の耐震補強設計が必要となる。



今回の耐震補強においては新たな耐力要素を付加するので、基礎においては鉄筋コンクリート造のべた基礎とした。

写真の礎石はそのまま残し、既存の柱とホールダウン金物等で緊結した。



べた基礎打設後のホールダウン設置状況

この写真で分かるように礎石を残して既存の柱をコンクリートに埋め込まないようにした上で床下部分でホールダウン金物等を設置し、耐力壁の引抜力に対応しているようにした。



天井を取っ払ったところ、既設の床板に劣化が生じており、また、水平構面の性能が担保できないため床板を取っ払い、新たに構造用合板を設置し、水平剛性を高めることとした。



同上の合板設置後の状況。



下屋部分の小屋裏に耐力を伝達するため、三角形の耐力要素を天井から屋根面まで設置し、耐力要素と金物とで緊結した。

このように、下屋部分の耐力要素を効果的にしたいのであれば下屋の屋根鉛直構面を考慮した補強が必要である。



既存の和室8畳が連続する部分の押入れを写真のように耐震補強要素の耐力壁とし、床の間部分は既存のままとした。

こういった見えない箇所の補強により以前と変わらない雰囲気であるが、耐震性能は飛躍的に向上することが出来る。



この耐震補強の要素として、一部に木構造建築研究所田原でよく使っている「面格子耐力壁」を採用した。

この「面格子耐力壁」の製作は京都の建具職人に作ってもらい、その精度は非常にすばらしいものがあり、また木材の含水率も15%以下で、構造的にも良材であった。



「面格子耐力壁」の取付状況

枠材と軸組要素を一体化にするため、通常市販されているコーススレッドビスよりも高性能なヤマヒロ製のコーススレッドビスで取付、十分な性能を確保した。



この「面格子耐力壁」の性能は以前に学会等で発表した、当方でいつも使っているものではあるが、これを3.9kN/mで評価し、更に余力として構成したものである。



耐震補強工事が完了した状況(外壁は塗り直したのみである)

出来上がった雰囲気は全く昔と変わらない状況で、古い建物がきれいになったということしか感じられないだろうが、耐震性能は精密診断法Iでの評価で、補強前は評点は1FX0.10 1FY0.47 2FX0.21 2FY0.73としう性能を耐震補強後は1FX1.10 1FY1.0 2FX1.50 2FY1.1という耐震性能にしている。



写真の「面格子耐力壁」を設置したことにより、中庭が見え、壁にして暗くならないように考慮した結果、依頼者からも喜ばれ取りまとめを行った意匠設計者からも非常に喜ばれ満足した結果となった。

このような規模の耐震補強事例は、費用と工期がなければなかなか出来ないが、木構造建築研究所田原では毎年数棟の事例がある。


改修後の2階座敷

耐震性能を向上させながら、京町家の開放的な空間を維持している。


吹抜け部分の開口部に取り付けたブレース。

耐震補強後も明るい吹抜け空間となっている。


車椅子生活にも対応できるようエレベーターを設置。

伝統的な空間と暮らしやすさを両立している。


玄関の「面格子耐力壁」。

今回の改修において構造面だけでなく、意匠的にも重要な要素となっている。


 ©Tahara Architect & Associates, 2012