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木(気)を使った構造設計とは(2)



20世紀末頃、ある人に木造住宅の構造設計の必要性を話したところ、次のようなことを言われた覚えがある。

「たかが木造住宅レベルでは、構造設計を組み込めない程度の設計料(2000万円程度の工事費であれば、10%=200万円程度)しかもらっていないし、その程度の金額で鉄筋コンクリート造や鉄骨造と同様な構造設計が本当に必要なのか疑問に思う。」

と言われた事がある。

また、ある人には

「施主に、構造設計者と一緒に設計します、と紹介すると、自分の能力が低く見られる恐れがある。建築家としてはすべてを取りまとめたいし、そうする事ができるの力を持っているのが建築家だと思うので、わざわざ施主とプランの打ち合わせをするときから構造設計者と一緒にやろうとは思わない。」

と言われた。

このような設計者の本音を、全財産をつぎ込んで家を建てようと思う人が聞いたら、一体どのように思うだろうか。

「構造の安全性能は、建築基準法を守って検査機関等の中間検査も受けますし、○○邸の設計は建築士としての責任を持ってやらせていただきます。」

と施主には言っておいて、

「施主の信用をもらってやっているので、構造設計者には施主との打合せ完了後、意匠図がある程度固まってから構造計算だけお願いしたい。」

という設計者が大半であるが、これはほとんど代願業務に近い計算をしてほしいと同意語であり、施主のために安全を担保するため、こちら(構造設計者)から「この意匠プランであれば構造的にかなり無理があるからもう少しこうすればいいのに」とアドバイスをしても、「もうそれで決定して契約しているから、なんとかならない?」と言われ、そんなことを言う人ほど、ローコストなプランで構造計画上無理な場合が多いのが現状なのである。

そのような設計者に「まず、この○○邸はどのような安全性能がほしいと希望されているのですか?」と問い掛けても、「施主にそんなことを言っても分かるはずないし、ローコストなので基準法を守るだけでいいのだから、早く計算してホールダウンの位置を決めて、ホールダウン用のアンカーボルトの位置を教えてよ。基礎伏せ図はこっち(意匠設計者側)で描くから」という人が大半である。

しかし、建築基準法のレベルはあくまでも最低の安全レベルであり、最高のレベルであると勘違いしているのである。

本当にそのことを理解している人(建築関係者)は、どれだけいるのだろうか。

施主にとってメリットのある性能重視の時代(21世紀)になったのに、いまだに20世紀的思考から抜け出せていない人が、木造住宅の設計・施工等にかかわっているのが非常に残念でもある。

一人ですべてを理解できるような技術者は存在しないと言っても過言ではない。

住宅づくりは多くの人の共同作業で成り立っているのに、それをすべて一人でコントロールしようとする人がいる限り、様々な問題がこれからも続くであろうと思われる。

21世紀になった今でも上記のような事が私の周りでは時々起こるのだが、木造2階建ての住宅であったとしても、建築基準法だけに頼るのではなく、せめて、品確法程度は満足するような木造住宅でなければ、大地震時にその差が出る事を理解してほしいのだが・・・・


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 ©Tahara Architect & Associates, 2003